とりあえず車体に大砲つけばOK!「2階建て戦車」M3が超有能だったワケ「ウチのより使える」と英軍も大満足!?
大戦中のアメリカ戦車に、砲を2段重ねで装備した異形の戦車が存在しました。M3と名付けられた戦車は、M4「シャーマン」が本格配備されるまでの中継ぎ的存在でしたが、イギリス軍では重宝されたとか。どこが良かったのでしょうか。
「グラント」と「リー」なぜ2種類あるの?
言うなれば、M3は「急造戦車」であり、より本格的な構造を持つM4中戦車が本格配備されるまでのリリーフ的存在でした。しかし、「2階建て戦車」としての車高の高さが長所になったこともありました。

それは、視界が開けた北アフリカの砂漠の戦場では、車長の乗る位置が高いので遠くまで見渡すことができる点です。これは、視野が限られた東南アジアの密林地帯でも同様で、近接攻撃を仕掛けようと近づいてくる敵兵をいち早く発見することができたと言われています。
一方、短所は背が高いため、遠くから敵に見つけられてしまうという点や、75mm戦車砲が車体に搭載されているため、戦車壕を掘って車高を低くしての待ち伏せなどができないことなどでした。
このように、M3はアメリカの優れた基礎工業力に支えられた信頼性の高い戦車であるうえ、出現当時は世界水準の性能を備えていたため、北アフリカで苦戦を続けるイギリス軍を支え、同地に上陸して初めてドイツ軍との地上戦を戦ったアメリカ軍でも使われました。さらにソ連に送られた本車も、ドイツ軍との戦いで健闘しています。
しかし75mm戦車砲を搭載した大型旋回砲塔を備えるM4「シャーマン」中戦車が登場すると、M3は徐々に第一線から外れて戦車回収車や火砲牽引車など特殊用途の車両に改造されました。とはいえ高い車高が評価されて、ビルマ戦域では終戦近くまで、一部でM3が第一線で活躍しています。
なお、M3には「グラント」と呼ばれたモデルと、「リー」と呼ばれたモデルの2種類が存在します。「グラント」は砲塔後部に無線機を搭載するなど、イギリス軍規格で改修を加えたM3を、アメリカ南北戦争時の名将で後に大統領にもなった人物(グラント)にちなんで命名。その後、レンドリース法によりアメリカ軍規格のM3が大量に供給されるようになると、同じく南北戦争時代の南軍の名将(リー)にちなんで「リー」と命名したからです。
両者は、砲塔形状以外はほぼ同じなため、イギリス軍でもそこまで区別して使っていたわけではありませんでした。のちに、これらの名称は、アメリカ軍にもフィードバックされています。
Writer: 白石 光(戦史研究家)
東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。
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