ウクライナ空軍「最新戦闘機」で一新へ? 中核は「グリペン」 カネの心配よりも大きなメリットとは?

スウェーデン政府がウクライナとの航空戦力分野における協力に関する意向書に署名したと発表しました。この中には、ウクライナが最新戦闘機JAS39「グリペンE」を最大150機調達する計画も含まれています。

「お古」戦闘機頼りのウクライナが変わる?

 ウクライナ空軍は現在、旧ソ連からの分離独立時に移管されたSu-27「フランカー」などの旧ソ連製戦闘機と、オランダなどから譲渡されたF-16、フランスから譲渡されたミラージュ2000戦闘機、合計6機種の戦闘機と攻撃機を運用しています。

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2026年5月にロールアウトした「グリペンE」の飛行試験初号機(竹内 修撮影)

 いずれも機齢は30年近くに達しており、将来的には新型機で更新する必要があります。

 また、旧ソ連(ロシア)、アメリカ、フランスという、まったく異なる設計思想で開発された戦闘機の混合運用は、維持整備の面でウクライナ空軍にとって大きな負担となっていると考えられます。

 ゼレンスキー大統領は10月27日、ウクライナ空軍には250機の戦闘機が必要で、グリペンEのほか、アメリカ製のF-16とフランス製のダッソー「ラファール」も導入する意向を示しています。

 戦闘機と攻撃機の種類を減らせば、その任だけウクライナ空軍の維持整備の負担は低減されます。グリペンEを含めたサーブの開発した戦闘機は、有事の際に招集した予備役兵でも整備が行えるよう、極力簡略化した構造になっています。おそらくこの点も、将来のウクライナ空軍の戦闘機戦力の中核に、グリペンEが据えられた理由の一つだと筆者は思います。

ただの「戦闘機購入」では終わらないメリット

 海外メディアはグリペンEのメーカーであるサーブが、ウクライナにグリペンEの最終組み立てラインの設置を検討していると報じています。

 これは実現すればウクライナに少なからぬ雇用を創出しますので、ウクライナの国家再建にもつながるのですが、サーブにとっても「美味しい話」なのではないかと思います。

 中南米向け以外のグリペンE/Fの最終組み立ては、スウェーデンのリンショーピンで行われています。リンショーピンでは現在、スウェーデン空軍向けのグリペンEの最終組み立てが行われていますが、将来的にはこれにタイ空軍向けのグリペンE/Fが加わります。仮にグリペンE/Fの導入が取りざたされているポルトガルやカナダなどがさらに採用を決めれば、最終組み立てラインの増設も視野に入れなければなりません。

 航空機メーカー「アントノフ」が存在し、各種ドローンを開発できるウクライナであれば、おそらくスウェーデンより安価に、質の高い労働力を確保できる可能性が高く、グリペンEの最終組み立てラインを設置するには、うってつけの場所と言えるでしょう。

 サーブは近年、AI(人工知能)「セントール」を搭載したグリペンEと、人間の操縦するグリペンの模擬空戦を成功させています。これは高~中高度を高速飛行する空対空戦闘を想定して行われたものですが、ウクライナ空軍はロシアとの戦いで低空を低速で飛行するUAS(無人航空機システム)を戦闘機で迎撃しています。このノウハウを入手できれば、サーブの進めている無人運用可能な戦闘機というコンセプトは、さらに高いレベルで実現できると思われます。

 スウェーデンとウクライナの航空戦力分野における協力は、両国にとって「Win-Win」なものだと思いますが、一番喜んでいるのは、もしかしたらサーブなのかもしれません。

【コレ人乗ってません!】マジで飛んでる「無人グリペン」(写真で見る)

Writer:

軍事ジャーナリスト。海外の防衛装備展示会やメーカーなどへの取材に基づいた記事を、軍事専門誌のほか一般誌でも執筆。著書は「最先端未来兵器完全ファイル」、「軍用ドローン年鑑」、「全161か国 これが世界の陸軍力だ!」など。

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