自衛隊の”次期練習機”を最新技術で支援! 世界屈指の「航空機メンテ企業」トップを独占取材!(前編)

航空自衛隊が新たな初等練習機としてアメリカ製のT-6「テキサンII」の導入を決めましたが、そのサポートにアメリカの大企業が手を挙げています。日本ではまだ知らない人が多い「隠れた巨人」といえる企業を取材しました。

最新技術の活用で「効率的な整備」を実現

 さらにダナウェイ氏によると、アメンタムではアメリカ海軍および空軍のT-6整備において、いくつかの先進的なシステムを導入したといいます。その1つが「電子ツールボックス」です。

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アメリカ空軍で運用されている練習機のT-6A「テキサンII」。航空自衛隊でも初等練習機として導入が決定された(画像:アメリカ空軍)。

「電子ツールボックスは、特定の機種や作業工程ごとに必要なツールを一元的に管理するもので、複数の整備作業を跨いで使用できるように設計されています。従来、航空機1機につき多数の小型ツールセットが必要でしたが、集約化されたスマート電子ツールボックスを導入すれば、1つのユニットで複数機を同時サポートできるようになり、大幅な効率化を実現できます。

 また、ツールボックス自体が『スマート化』されており、各工具の使用を正確にモニターすることができます。整備員がツールを取り出す際にはスキャンし、誰が、どの機体のどの作業に使用したかがリアルタイムで記録されます。工具の返却漏れや紛失、破損も即座に検知され、管理センターに通知されます。

 さらに、このツールボックスは整備管理センターや品質保証室、テストパイロット室ともネットワーク連携が可能であり、各部門の端末上で整備進捗をリアルタイムにモニターできます。整備の全工程が電子的にトレース可能となったことにより、作業効率と安全性が飛躍的に向上しました」

 この電子ツールボックスの導入により、たとえば機体内に整備用ツールを置き忘れてしまうといったミスが発生しなくなったといい、航空整備で最も重大な問題の1つである「FOD(Foreign Object Damage:外来物損害)」の発生件数が大幅に減少し、電子ツールボックスを使用したほとんどのケースでFODの発生がゼロであるとダナウェイ氏は語ります。

 これに加えて、ダナウェイ氏によると最近では拡張現実(AR)や仮想現実(VR)といった最新のデジタル技術を用いたデバイスも導入されているといいます。

「最近では、拡張現実・仮想現実(AR/VR)を活用した整備支援システムも活用されています。整備員はARヘッドセットを装着し、両手を自由に使いながら、画面上で整備手順や技術資料を参照・実施できます。このシステムには最大50言語が搭載されており、多国籍チームでも同一作業をスムーズに遂行できます。

 このデバイスの最も大きな利点は遠隔支援が可能な点です。整備員が難しい故障に直面した際、オフィスに戻って技術者へ連絡する必要はありません。ヘッドセット上からOEM(製造元)の技術担当者や専門エンジニアに直接接続でき、双方が同じ映像をリアルタイムで共有して問題を解決します。必要な部品番号を確認すれば、その情報が即座にOEMへ伝わり、翌日には代替部品が発送されるというスピード感です」

 最新技術の活用は、機体の製造だけではなくその整備分野にまで及んできており、それを活用することにより、アメンタムでは従来よりも効率的かつ正確な整備作業を実現しています。

 そういったノウハウを持つ同社が日本で事業を拡大し、日本企業との連携を強化するなら、T-6「テキサンII」の整備だけでなく、航空自衛隊に対しても大きな恩恵をもたらすことは間違いないだろうと、今回の取材を通して筆者は実感しました。

【日の丸付きはいつ見れる?】これが「空自の次期初等練習機」です(写真)

Writer:

軍事ライター。現代兵器動向のほか、軍事・安全保障に関連する国内法・国際法研究も行う。修士号(国際法)を取得し、現在は博士課程に在籍中。小学生の頃は「鉄道好き」、特に「ブルートレイン好き」であったが、その後兵器の魅力にひかれて現在にいたる。著書に『ここまでできる自衛隊 国際法・憲法・自衛隊法ではこうなっている』(秀和システム)など。

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