「地形が厳しすぎる」沿線に“住んでもらう”には? 京急が進める「かなり泥臭い戦略」の凄み キッカケはマグロ
人口減少の波が迫るなか、鉄道各社は沿線の価値向上に舵を切っています。手法は様々ですが、京急はかなり大変な方法をあえて採っているようです。若い世代の心を掴む“戦略”を探ります。
「異次元」375団体との繋がり
筆者(山田和昭:日本鉄道マーケティング代表、元若桜鉄道社長)も鉄道事業者として、鳥取や滋賀で地域の様々な団体と連携を進めてきた経験がありますが、20程度の団体でも多様な要望が出て、利害調整には大変な苦労が伴いました。
ところがnewcalに参画するのは、なんと375団体。これは実務家から見れば、異次元とも言える規模です。
「うちは緩く繋がっているだけですから」と、責任者の佐々木忠弘部長(京急 新しい価値共創室)は淡々と語りますが、その裏にある労力は想像を絶します。
この泥臭い取り組みが、「店主との温かな交流」といったリアルな手触り感を生み、表面的な観光に飽きたZ世代を惹き付け、newcalの登録者数は30万人を突破しています。
さらに、2023年に沿線住民で結成された子育て応援ネットワーク「Weavee(ウィービー)」では、50団体が繋がり、ママクリエイター達が行政の広報では届きにくい「地域のリアルな魅力」をポッドキャストなどで活発に発信しています。当事者が発信することで心を掴み、関係性を社会資本として蓄積し、人口流入や定住を促進する「選ばれる沿線」となることを狙っているようです。
エリアマネジメントは直接的な収益が見えづらい事業です。しかし、経済学の基本に立ち返れば、鉄道が人とお金を運び資産価値を上げる「外部経済」を沿線にもたらすことこそが本来の鉄道経営です。沿線価値を引き上げ自社に取り込む「外部経済の内部化」という民鉄経営の本質を、エリアマネジメントによって新しい形で事業にしています。
本業である鉄道としての京急は、機械化に頼りすぎず、現場の状況を的確に判断する「人の力」を活かした運行で知られています。375の仲間と共に街を耕し続ける、この手のかかる戦略こそが、人口減少時代における、最も堅実な回答なのかもしれません。
Writer: 山田和昭(日本鉄道マーケティング代表、元若桜鉄道社長)
1987年早大理工卒。若桜鉄道の公募社長として経営再建に取り組んだほか、近江鉄道の上下分離の推進、由利高原鉄道、定期航路 津エアポートラインに携わる。現在、日本鉄道マーケティング代表として鉄道の再生支援・講演・執筆、物流改革等を行う。





嘗てこのルートは明治時代に横須賀線のルートになる予定でした。