米陸軍の“不屈の戦士”が50年ぶり復活! 因縁の名を継ぐ新型チルトローター機 「II」に込められた空軍への「意趣返し」とは

アメリカ陸軍は次世代多用途垂直離着陸機MV-75に「シャイアンII」と命名しました。半世紀前に開発中止となった攻撃ヘリコプターの名を継ぐこの機体には、陸軍の悲願と過去の因縁が込められています。

なぜ「シャイアン」の名が復活したのか

 近接航空支援(CAS)の任務分担を巡って陸軍と空軍が激しく対立し、1971年の上院軍事小委員会で陸軍のAH-56、空軍のA-X(後のA-10)、海兵隊のAV-8ハリアーの間で予算配分を巡る争いが表面化します。その結果、生存性や既存戦力との整合性が評価されたA-XとAV-8が優先され、AH-56は1972年に計画中止に追い込まれました。緊急性のあるベトナム戦線には簡便な単発のAH-1コブラが採用、投入されて実用攻撃ヘリの第1号になります。

 一方で陸軍は技術的に複雑ではなく、生存性が高いと見なされる従来形で双発の先進攻撃ヘリ(AAH)計画を立ち上げ、誕生したのがAH-64アパッチです。AH-64とA-10はCASの成功作となりましたが、シャイアンの挫折の上に築かれた存在ともいえます。

 なぜMV-75でシャイアンの名が復活したのでしょうか。その理由は、初代シャイアンが技術的挑戦で従来型ヘリコプターの限界を超えようとした系譜を継承しているからです。ヘリコプターと固定翼機の特性を併せ持つチルトローター機のMV-75は、従来型であるUH-60の2倍の速度と航続距離があるとされます。

 このコンセプトは、対中国軍を念頭に作戦地域と目標が広大に分散し、海面が大きくて途中着陸できるような前進基地の確保が難しいインド太平洋地域での作戦運用を強く意識したものです。

 V-22オスプレイは1980年代の技術で開発され2007年にアメリカ空軍や海軍、海兵隊で運用が開始されていますが、MV-75はそれから約20年の技術進歩を取り入れた次世代機であり、構造やアビオニクスは大きく進化しています。V-22は主翼とエンジンナセルごとローターを傾ける構造でしたが、MV-75ではエンジンと主翼は機体に固定され、ローターのみチルトする構造になっています。

 ただし、アメリカ陸軍にとってチルトローター機の導入は初めてです。MV-75はUH-60の単なる後継機ではなく、新しいカテゴリーの航空機です。当然ながら課題も少なくありません。

 まずパイロット養成はより高度化します。すでに陸軍では航空要員教育の段階からチルトローター機の運用思想が組み込まれ始めており、将来の部隊運用を見据えた準備が進められています。整備面でも、チルト機構など複雑な構造は負担が大きく、稼働率やコストへの影響が懸念されます。また、運用面では、長距離・高速機動を前提とした新たなドクトリンの構築が不可欠であり、空軍や海軍との役割分担も再び議論の対象となる可能性があります。

「シャイアンII」という名称は、こうした変化を象徴するものでもあります。それは過去に技術と政治の壁に阻まれた陸軍航空戦力の速度と長距離作戦能力への再挑戦であり、同時に1970年代に空軍との政治力学の中で頓挫したシャイアン計画に対する、陸軍からの意趣返しという因縁的な側面も感じさせます。「シャイアン族は『不屈』の戦士文化を体現」と述べられたのが象徴的です。

【写真】これがMV-75と初代「シャイアン」です

Writer:

1975(昭和50)年に創刊した、50年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。

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