機関砲から眺める航空兵器の脅威 陸自「L-90」高射機関砲が臨んだ実戦待機とは(写真12枚)
旧式化した機関砲にあって誘導ミサイルにないものとは?
それはズバリ即応性です。ミサイルは誘導式のため発射すれば高確率で命中しますが、逆に発射前に目標を捉える必要があります。これはレーダー誘導なら目標にレーダー照射し、そこから跳ね返ってきた電波なりをミサイル弾頭で補足し、その反射を追っかけることで目標に向かっていきます。ほかに赤外線(熱線)誘導ならエンジンなどの排熱をまず捉えます。画像誘導なら機影をミサイル弾頭のカメラで捉える必要があります。こういった段階を経て初めてミサイルは射撃することが可能なため、どうしても発射の前にワンステップ必要になるのです。
それに対し、機関砲ならレーダーに捉えられなくても目視で手動操作にて射撃することができます。そうなると「飛び立った」あるいは「飛んでいる」という情報があれば仮に機影が確認できなくとも予想して射撃することができるのです。このタイムラグは航空機の場合大きく、化学剤であればわずか1秒でも遅れれば空中散布されてしまうため、だからこそ熟練した隊員がマニュアルで操作できるL-90が選ばれたのでした。
それでは最後にトリビアを。このふたつの事件で実働したL-90、実は世界35ヶ国で採用されたベストセラーで、なんと日中韓そして台湾も採用した実は隠れた極東アジアの標準機関砲です。西側だけでなく中国(しかもコピー生産ではなくライセンス生産)でも採用・量産していたほか、同国および韓国では現在も現役で使用されています。
※参考文献
大小田八尋『ミグ25事件の真相 闇に葬られた防衛出動』(学研文庫)
福山 隆『地下鉄サリン事件戦記』(光人社)
【了】
Writer: 柘植優介(月刊PANZER編集長)
創刊40年以上を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)の編集人。子供のころから乗り物全般が好きで、車やバイクはもちろんのこと、鉄道や船、飛行機、はたまたロケットにいたるまですべてを愛す。一時は自転車やランニングシューズにもはまっていた。
ドローン等が増えた現在、実弾系の再配備もした方がいいのでは?