沖縄上空「WW3」の危機! 空自唯一の実弾射撃、「対ソ連軍領空侵犯機警告射撃事件」

現在も続く極東の緊張

 日本側からの抗議に対しソ連側は、「領空侵犯は悪天候と計器故障による事故であった」「航空自衛隊機を目視したが旋回方向を誤った」などと説明しています。

 しかし、当日の天候は晴れ、視界は十分で、複数の島も見渡せるほどの天候であったことから、防衛庁(現在の防衛省)防衛局長は「かなり悪質であると考えている」と強い口調で発言しました。またスクランブルの任務にあたった自衛隊員からも、「ソ連機の搭乗員からは、操縦ミスなどの焦りは感じられなかった」という証言もありました。

 こうした日本の抗議を受けソ連は翌1988(昭和63)年2月、当該機(Tu-16)の機長を1階級降格させ、さらに搭乗員2名に対して搭乗停止処分を下したことが、ソ連大使館を通じて発表されました。

 ちなみにアメリカ軍は、12月9日に起こった事態をすべて把握していました。ソ連軍機の沖縄接近にともない、米空軍のF-15戦闘機もほぼ同時に嘉手納基地からスクランブル発進を行い、非常事態に備えて上空待機していたのです。そのうえで、上級司令部である横田基地の在日米軍司令官(兼第五空軍司令官)は、「あの事態において、航空自衛隊のF-4EJがソ連爆撃機を撃墜しなかったことを高く評価する。彼らは、非常に冷静に対応した」という高い評価を下しています。

 このとき、航空自衛隊がTu-16を撃墜していたらどうなっていたでしょう。考えすぎかもしれませんが、第三次世界大戦が勃発していたとしてもおかしくはありません。

Large 181130 soviet 09 Large 181130 soviet 07 Large 181130 soviet 08

拡大画像

拡大画像

拡大画像

第302飛行隊のオジロワシのマークは大きく派手なことで有名。F-35Aでは「雷神」を用いた違うマークになる予定(月刊PANZER編集部撮影)。
南西諸島の島の上を飛ぶ「ファントムII」戦闘機(画像:航空自衛隊)。
百里基地のエプロンに並んだ第302飛行隊の「ファントムII」。現在は改良型のF-4EJ改を運用している(画像:航空自衛隊)。

 時は経ち2018年現在。ソ連は崩壊し冷戦は終結しましたが、極東上空の緊張感は、まだまだ続いています。それどころか、国籍不明機の出没回数は、冷戦時代をも上回っており、2016(平成28)年度におけるスクランブル発進の回数は初めて1000回を上回ったそうです。

 なお、この事件の主役である第302飛行隊は、1976(昭和51)年9月6日に起きたMiG25亡命事件の際にも、千歳基地(北海道)からスクランブル発進しています。そして2018年12月現在は、改良型のF-4EJ改を装備し、百里基地(茨城県)にて首都圏防空の任に当たっていますが、2018年度末(2019年3月)には三沢基地(青森県)へ移駐し、最新鋭のF-35Aに機種更新して、航空自衛隊初のステルス戦闘機部隊になる予定です。

 第302飛行隊の領空防衛任務は、新型機に更新されても連綿と続けられるのでしょう。

【了】

この記事の画像をもっと見る(9枚)

最新記事

コメント

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleのプライバシーポリシー利用規約が適用されます。

1件のコメント

  1. 事件だと?当たり前のことをしただけだろうが。警告射撃くらいはね。実際当時のソ連からその後謝罪が届いたとの話もある。