伊予鉄「坊っちゃん列車」が走るまで 路面電車の線路に汽車再現どうやった? 転車台もなし

終点で方向転換、なんと人力で

 こうした理由で蒸気機関車としての復活は断念されました。しかし、可能な限り明治時代の「坊っちゃん列車」を再現する方向性で2001(平成13)年に登場したのが、機関車D1形(1888年製造の甲1形1号機関車がモデル)と、客車ハ1形(同年製造のハ-1形2両がモデル)です。さらに翌年、機関車D2形(1908年製造の甲5形14号機関車がモデル)と客車ハ31形(1911年製造のハ-31形がモデル)が登場し、2022年現在は2編成体制となっています。

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客車は人力で押せるほど(2019年3月、安藤昌季撮影)。

 環境に配慮して、機関車の動力はディーゼルエンジンですが、水蒸気による発煙装置で、煙突からはダミーの煙が出ます。機関車の動力音も車外スピーカーで鳴らすため、見る人が詳しくなければ、本物の蒸気機関車と感じられるほどの完成度です。

 博物館明治村(愛知県犬山市)で、本物の明治時代の汽車に乗車した筆者(安藤昌季:乗りものライター)ですが、「坊っちゃん列車」について少なくとも外見は、客車のクッションがない木製座席の座り心地も含めて「ほぼ再現されている」と感じました。全国各地に「レトロ風新型車両」が存在しますが、オリジナル車両に対する再現度は高いでしょう。

 なお「坊っちゃん列車」には運転士や車掌が乗務していますが、その制服も明治時代の伊予鉄道創業時のものを復元しているという凝りようです。

 ところで、松山市内線は一般的な路面電車が走行する電化路線ですから、蒸気機関車が方向転換する際に用いるターンテーブルは存在しません。では「坊っちゃん列車」はどのように向きを変えるのでしょうか。

 終着駅に着くと、まず機関車から客車を切り離して、機関車を2本の線路をつなぐ渡り線に移動させます。そこで機関車に装備された油圧ジャッキで車体を持ち上げ、人力で本体上部を回転させて方向を変え、折り返し運行するための線路に移動します。同じく客車も人力で渡り線を通して移動させ、機関車と再連結するのです。

「坊っちゃん列車」は道後温泉~松山市間を1日3往復、道後温泉~JR松山駅前・古町間を1日1往復しています。乗車には大人1300円、子ども650円の乗車料金が必要です。

【了】

【マジで「マッチ箱のような汽車」】「坊っちゃん列車」の車内を見る

Writer: 安藤昌季(乗りものライター)

ゲーム雑誌でゲームデザインをした経験を活かして、鉄道会社のキャラクター企画に携わるうちに、乗りものや歴史、ミリタリーの記事も書くようになった乗りものライター。著書『日本全国2万3997.8キロ イラストルポ乗り歩き』など、イラスト多めで、一般人にもわかりやすい乗りもの本が持ち味。

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