「変動運賃」高速バスはどう磨かれてきたか 新導入も続々 鉄道で検討しているのは“別物”

「早割」じゃニーズを掴めない?

 航空、特に国際線で、割引運賃と言えば早期購入割引だった頃がありました。国際線の旅客は、観光客と出張客に二分できます。そのうち、観光客は早めに予約する傾向があります。価格が高ければ旅行先や搭乗日を変更できますし、そもそも「自腹」なので価格に敏感です。

 一方、海外出張するようなビジネスパーソンは多忙で、直前まで予定が決まらず、会社負担なので価格をあまり気にしません。そこで「初めは割引運賃を提示し観光客を集客しておき、ある時期が来ると価格を上げ、高単価を見込める出張客のために席を取り置く」のが、航空会社としてベストな戦略です。旅客から見ても、観光客は安く旅行でき、出張客にとっても直前まで席が空いている、というメリットがあります。これが、航空で「早割」が定着した理由です。

 では高速バスでも「早期予約客は価格に敏感で、直前予約客は価格を気にしない」という法則性があるかというと、そうではありません。予約の時期と利用者のバジェット(いくらまでなら支払うか)に相関関係がない以上、早期予約客に大きく割引をしても予約数が増えるわけではなく、逆に高速バス予約の多くを占める直近予約客には高すぎる運賃を提示して、客離れを起こしているリスクがあります。予約の時期ではなく、それぞれの便の需要の大小に着目して運賃を変える方が理にかなっています。JRバスの早期購入割引廃止とダイナミック・プライシング導入は、その考えに基づいたものです。

 ダイナミック・プライシングを導入済みの事業者でも、「早割」にこだわって「低めの運賃を設定し、予約数(オンハンド)の伸びに合わせて段階的に値上げする」運用を行っている事業者を見かけますが、市場のニーズと向き合い、戦略を考え直す必要があると言えるでしょう。

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JRバス首都圏~京阪神線の夜行「青春エコドリーム号」(乗りものニュース編集部撮影)。

 なお、JRバスが首都圏~京阪神線でダイナミック・プライシングを導入できたのは、JRバス3社(関東/東海/西日本)が運営する基幹システム「高速バスネット」を改修したからです。JR系の事業者でも、他のシステムを基幹システムとしている会社では、ダイナミック・プライシングをまだ導入できていません。特に、新興事業者らと激しく競争する首都圏~仙台線で、運賃設定に相当苦労しているように筆者(成定竜一:高速バスマーケティング研究所代表)には見受けられます。

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