「変動運賃」高速バスはどう磨かれてきたか 新導入も続々 鉄道で検討しているのは“別物”
ダイナミック・プライシングの課題は「リピーター施策」
逆に大阪~長野線(南海バス/長電バス)は、2022年7月、基幹システムを京王の「SRS」に切り替え、ダイナミック・プライシングを導入しました。基幹システムの変更には、ウェブ予約の会員登録をやり直してもらう必要があるなど弊害もあるのですが、それを覚悟で決断したということでしょう。
ダイナミック・プライシングが普及する中で、課題も生まれています。例えば、多くの路線で、変動型運賃と整合しないとして回数券が廃止されています。しかし、特に昼行路線は、ビジネス出張や介護のための帰省といったリピーターに支えられています。運賃を変動させつつ、リピーターにはそこから常に回数券同等(10%程度)を還元する方策を考える必要があるでしょう。
高速バスの需要は、主な市場である地方部の人口減少にコロナ禍が追い打ちをかけ、完全には回復しない恐れがあります。その時、「運賃収入減少→コスト削減→減便などサービス水準低下→さらなる乗客逸走」という負のスパイラルだけは避けなければなりません。精緻な運賃変動により満席便から前後の便に需要を誘導することで、路線全体の収益性を向上させ、その収益をサービス水準維持に再投資するサイクル作りが重要です。
このようなダイナミック・プライシングは、さらに、タクシー、レンタカー、宅配便など応用できる分野が数多くありそうです。電力業界では、需要ピーク時の節電を促す目的もあって導入が検討されています。法令や現場のオペレーションなど各業界の特性に合わせながらダイナミック・プライシングを拡大させる上で、試行錯誤しつつ運賃規制の改正やシステム改修を重ねてきた高速バス分野の事例は、大いに参考になるはずです。
【了】
Writer: 成定竜一(高速バスマーケティング研究所代表)
1972年兵庫県生まれ。早大商卒。楽天バスサービス取締役などを経て2011年、高速バスマーケティング研究所設立。全国のバス会社にコンサルティングを実施。国土交通省「バス事業のあり方検討会」委員など歴任。新聞、テレビなどでコメント多数。
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