いまだ実績ゼロ! 売れない“日の丸輸送機C-2” 尻目に快進撃の「ブラジル製輸送機」メーカーを直撃したら納得でした
日本製のC-2輸送機とブラジル製のKC-390輸送機は、生まれた時期が近しいジェット輸送機です。しかし、前者はいまだ輸出実績ゼロなのに対して、後者はすでに6か国に採用されています。なぜKC-390は売れているのか、開発元に聞きました。
「売れる機体」は最初から市場を見ている
エンブラエル社のあるブラジルでは、自国空軍が1970年代にC-130Hを導入し、長らく使い続けていました。しかし、老朽化による稼働率の低下と運用コストの高騰が問題となっており、同様のことは世界で70か国以上もあるC-130の運用国における共通の課題だと認識します。そこから、低価格な新型の戦術輸送機を開発すれば、諸外国における更新需要を取り込めると判断、こうしてKC-390の開発プロジェクトが始まったのです。

そのため、同機はC-130が持っている戦術輸送機としての柔軟な運用能力を兼ね備えつつ、新型のアビオニクスやフライ・バイ・ワイヤ、自己防御システムなどの最新技術を盛り込んで、より高い能力を達成しています。
世界各国で運用できるように相互運用性も確保し、特にヨーロッパの多くの軍隊が加盟するNATO(北大西洋条約機構)での運用も見越して、NATOが提唱するSTANAG(標準化協定規格)との互換性も設計段階で盛り込んでいます。こうした積み重ねが実を結び、ポルトガルやハンガリーの導入決定に繋がりました。
KC-390とC-2の輸出実績の明暗が分かれた一番の理由は、機体の能力差ではなく、開発プロジェクトの進め方自体にあったといえるでしょう。航空自衛隊での運用だけを考えて開発されたC-2と、国際需要を見越して開発されたKC-390では、世界中の軍隊にとってどちらが魅力的な機体に見えるかは明らかです。
日本は、2014年4月の防衛装備移転三原則(防衛装備移転三原則及びその運用指針)制定をきっかけに防衛装備品の輸出を積極的に行い始めました。これまで家電や自動車などが国際的な高評価を獲得してきたため、それらと同様に「優秀な日本製品ならば売れる」と考える人がいてもおかしくありません。
しかし、このKC-390の例に限らず、それを必要とするユーザーのニーズはどこにあるのか、それに耳を傾け、市場調査をしないとうまくいくはずがありません。日本の家電や自動車が高い評価を得たのは、そういったことを地道に進めたからであり、それは防衛装備品においても同様です。
翻って、C-2は計画当初から日本以外の国のニーズを汲んで開発を進めたのでしょうか。同機に限ったことではありませんが、単に高性能な装備を作るだけでなく、それが“選ばれる装備”になるための戦略があるか否か、そこがこれからの防衛産業には問われているのかもしれません。
Writer: 布留川 司(ルポライター・カメラマン)
雑誌編集者を経て現在はフリーのライター・カメラマンとして活躍。最近のおもな活動は国内外の軍事関係で、海外軍事系イベントや国内の自衛隊を精力的に取材。雑誌への記事寄稿やDVDでドキュメンタリー映像作品を発表している。 公式:https://twitter.com/wolfwork_info
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