ホンダ“名物バイク”の始祖!? 大戦中の「英折り畳みバイク」軽くするため諦めたものとは? 大阪で実車見てきました!

第二次大戦中、空挺部隊が戦場に降下した後の移動手段として各国で研究された小型バイク。イギリス軍によって実用化された折り畳み式のバイクは戦後に民間でも使われ、さらに日本ではあの小型バイク開発のヒントにもなりました。

戦場の足から戦後は民間バイクにも進化

 しかし、メリットばかりに思えたウェルバイクにも問題点もありました。それは空挺兵たちがパラシュート降下後に手際よくバイクの入った空中投下コンテナを見つけられないことがしばしば起こり、徒歩で任務を遂行しなければならない場合が間々あったからです。また、パワー不足気味のエンジンや小径タイヤのため、不整地の走行性能に限界があったとの報告も残っています。

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実物の空中投下コンテナに収納された状態のウェルバイク。容積に対して無駄なくコンパクトに折り畳まれた状態が良くわかる(吉川和篤撮影)。

 さらに大戦後期になると大規模な空挺作戦には大型グライダーが投入されるようになったことで、より大馬力でかつ大型の軍用バイクや、ジープすら空挺部隊向けに空輸できるようになりました。こうしたことを受け、ウェルバイクの出番は次第に限られていった結果、1943年6月以降の契約分はキャンセルされ、生産は終了しています。

 キャンセルされず軍に納入された後期生産分についても、あまり戦場で使われなかったようで、そうこうしているうちに大戦は終結。余剰となったウェルバイクは民間に放出されますが、その多くはアメリカに輸出されました。ただし前輪ブレーキがないため公道では原則使用できず、そのほとんどは農場やキャンプ場などでの構内移動用、またはレジャー用のアウトドアバイクとして用いられました。

 一方、ウェルバイクの考案者であるジョン・ドルフィン中佐は戦後、そのアイデアを発展させた小型バイクを開発するために軍を離れ、コーギー・モーターサイクル社を設立します。彼は、ウェルバイクの改良型である折り畳み式のコーギー・スクーターを開発。同車は1947年から1954年にかけて北米やイギリスなどで販売されて、約2万7050台が製造されています。

 ちなみに、このハンドル収納式折り畳みバイクの構造は、1967年に登場したホンダ「モンキー」や、1981年に登場したホンダ「モトコンポ」にも影響を与えたと言われます。こうして見ると、第二次大戦中にイギリスの地方で開発された軍用バイクの開発アイデアが、流れ流れて戦後に極東のバイクメーカーへと伝わったことは感慨深いと言えましょうか。

 ウェルバイクが日本で唯一保管されている「ミリタリーアンティークス大阪」では、6か月ごとに展示内容を入れ替えて貴重な英軍装備の公開日を設けています。第二次大戦中に開発された貴重なイギリス生まれの空挺バイクを見たければ、同館のホームページやSNSでの告知をチェックしてみてください。

【意外とオシャレ?】日本唯一の「ウェルバイク」跨ってみた(写真)

Writer:

1964年、香川県生まれ。イタリアやドイツ、日本の兵器や戦史研究を行い、軍事雑誌や模型雑誌で連載を行う。イラストも描き、自著の表紙や挿絵も製作。著書に「九七式中戦車写真集」や「イタリアの中戦車・重戦車写真集 」、「イタリア軍写真集」など。

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