なぜ大型空母は似たような形なのか「とにかく発着艦をスムーズに!」試行錯誤の歴史 迷走して“ひな壇”になったものも
2025年9月12日、中国人民解放軍海軍の最新空母「福建」が、初めて台湾海峡を通過したことが確認されました。カタパルトを搭載する空母は、艦後方にナナメの飛行甲板(アングルド・デッキ)と、艦前方の直線的な飛行甲板を組み合わせた形状が現在は基本となっています。
カタパルトの発達により思い切った発想の転換が可能に
結局、第二次世界大戦中の空母では、発艦と着艦を同時に行うことは断念され、それぞれの作業に専念する時間帯を設けて運用されることとなりました。

しかし、この方式には重大な課題が残されていました。着艦時にオーバーランなどの事故が発生すると、飛行甲板前方に駐機している航空機に衝突し、甲板全体が使用不能になる危険性があったのです。さらに、戦後になるとジェット機の配備が進み、飛行速度が大幅に上昇したことで、オーバーランのリスクも一層高まりました。
この問題に対する画期的な解決策を考案したのは、空母の発祥国であるイギリスでした。船体後部に斜めの飛行甲板、すなわち「アングルド・デッキ(angled deck)」を設ける方式が考案されたのです。1950年、イギリス海軍のデニス・キャンベル大佐が、飛行甲板を艦の中心線から斜めにずらすことで、発艦と着艦を分離して同時に行えるのではないかと提案しました。
まず1952年2月、イギリス海軍のコロッサス級空母「トライアンフ」において試験的に導入され、続いてアメリカ海軍がエセックス級空母「アンティータム」を改装し、本格的な運用を開始しました。
このような運用が可能となった背景には、「スチームカタパルト(蒸気式カタパルト)」の技術的進歩があります。第二次世界大戦中から、蒸気圧を利用したカタパルトは存在していましたが、当時は悪天候や重武装機の発艦に限定的なものでした。
1950年代に登場した新型スチームカタパルトは、高圧蒸気の力でピストンを作動させ、航空機を短距離で一気に加速して射出する仕組みを備えており、大戦中のものよりも遥かに強力かつ効率的でした。これにより、離陸に必要な距離が大幅に短縮され、着艦甲板を斜めに配置する設計も実現可能となったのです。
実際にアングルド・デッキを採用してみると、着艦機は斜めの飛行甲板を、発艦機は艦首側の直線飛行甲板を使用するため、両者が干渉することなく運用でき、万が一着艦に失敗しても、衝突による被害はその1機にとどまるようになりました。また、エレベーターや駐機スペースが着艦動線から外された位置に設けられることで、飛行甲板上での作業も効率化されました。さらに、カタパルトの増設により同時発艦機数を増やすことも可能となるなど、多くのメリットが確認され、以後この形式が世界の空母の標準となっていきました。
なお、ロシア海軍の空母「アドミラル・クズネツォフ」など、スキージャンプ式(スキージャンプ・ランプ)を採用する固定翼機空母も、アングルド・デッキに類似した形状を持っています。
ちなみに、イギリスの現用空母「クイーン・エリザベス級」は、垂直/短距離離着陸機(STOVL)であるF-35Bを運用しており、艦前部を発艦用、後部を着艦用として使っています。これは、日本の護衛艦「かが」の空母化改装後の運用方式とも共通しており、実質的にアングルド・デッキと似た運用形態が採られています。
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