日本の新幹線とアメリカ製「奇抜な実験機」知られざる共通点とは? ポイントは“ドン”!
NASAの実験機「X-59」は独特な機体形状をしています。とくに機首部分は先端が扁平で、まるでアヒルのクチバシのようですが、これと似たような形状をしているのが日本の新幹線です。両者の知られざる共通点についてひも解きます。
「トンネルドン」も立派な公害
X-59の機首形状に似ているのがJRの新幹線車両、特に東北新幹線を走るE5系やE6系、E8系に、東海道・山陽新幹線、九州新幹線、西九州新幹線を走るN700系やN700S系です。どれも先頭は平べったい形状をしており、そこから徐々に上方に向けて断面積を増しています。

新幹線車両がこういった先頭形状を採用しているのは、トンネル通過時における騒音対策のためです。
列車が300km/hという高速でトンネル内に進入すると、ちょうどトンネルがシリンダー、列車がピストンの役割を果たし、車両の先端で空気が圧縮されます。この圧縮された空気が衝撃波となってトンネル出口に向けて伝わり、出口でドンという大きな衝撃音を発生させるのです。この現象は俗に「トンネルドン」と呼ばれています。
現在の新幹線は通勤電車のような高頻度で運転されており、沿線の住民にとって「トンネルドン」は無視できない騒音です。少しでも騒音が少なくなるように考えて設計されたのが、先端から一定の割合で断面積を増やしていく先頭形状というわけです。
X-59のような低ソニックブーム実験機と、トンネルドンを低減する新幹線車両。速度の違いで先端部の長さは異なりますが、どちらも騒音の原因は「空気の圧縮」によるものなので、同様の設計手法が採用されているといえるでしょう。
Writer: 咲村珠樹(ライター・カメラマン)
ゲーム誌の編集を経て独立。航空宇宙、鉄道、ミリタリーを中心としつつ、近代建築、民俗学(宮崎民俗学会員)、アニメの分野でも活動する。2019年にシリーズが終了したレッドブル・エアレースでは公式ガイドブックを担当し、競技面をはじめ機体構造の考察など、造詣の深さにおいては日本屈指。
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