「あらゆるコストが切り詰められた時代」を色濃く反映した“ギリギリ国鉄形車両”に乗った 「ガチャ…」←何いまの音!? 世代交代進む四国で
JR四国は普通列車用の新型車両を2026年6月27日に導入し、国鉄時代に製造されたディーゼル車両を順次置き換えます。一方、旧国鉄の分割民営化直前に導入された“ギリギリ国鉄形”のディーゼル車両は活躍を続けています。
うかがえる国鉄末期の財政事情
キハ54形が造られた当時を知る元JR役員は、筆者に対して「国鉄末期は財政が厳しかったため、新造車両もあらゆるコストが切り詰められた」と打ち明けました。キハ54-7が走り出すと、一例を「ガチャ」という音とともに体現しました。
それはバス用を流用した出入り口の折り戸で、発車時と停車時、自動的に施錠・解錠するドアロックが作動した音です。ドアエンジンや空調装置、窓もバス用です。
さらに台車や変速機は、廃車から流用しました。こうした爪に火をともすようなコスト抑制策を重ねたキハ54形は、新潟鉄工所(現・新潟トランシス)と富士重工業(現・スバル)によって造られました。
うち新潟鉄工所は経営が悪化したため2001年に会社更生法の適用を申請し、破綻しました。現在は投資会社ジェイ・ウィル・パートナーズが運営するファンドが所有し、鉄道車両や除雪機械を製造しています。富士重工は2002年度をもって鉄道車両の新規生産を終了し、「採算が厳しかった」という鉄道車両事業から撤退しました。
運転士の“異例の呼びかけ”
「おさんぽなんよ号」は高架の向井原(伊予市)を発車後、伊予大洲(大洲市)方面への短絡線となる内子線方面ではなく、海回りの予讃線へと進みました。単線の線路が右側へカーブし、生い茂る草木をかき分けるように進んでいきます。次の高野川(伊予市)に着くと、運転士が停車中の車内放送でこのような“異例の呼びかけ”をしました。
「この先、右手に海がご覧いただけます。美しい海の景色をお楽しみください」
観光列車ではない通常の普通列車のため、瀬戸内海の眺望が右手に広がることを伝えることは必須ではありません。しかし、この日は旅行者も多く乗り込む土曜日で、プラットホームの目の前に瀬戸内海が広がる下灘(伊予市)へ向かう観光客も大勢乗っていました。よって“異例の呼びかけ”は、観光客が絶景スポットを見逃さないための絶妙なアシストと言えそうです。
伊予長浜(大洲市)では、反対方向の列車との行き違いで6分停車。列車にはトイレが付いていないため、停車時間中に駅のトイレへ向かう利用者もいました。
入線した反対方向の列車は、鋼鉄製車体のディーゼル車両のキハ32形です。キハ54形と同じく旧国鉄末期に製造され、造られた21両はいずれもJR四国に引き継がれました。搭載しているのは出力250馬力のディーゼルエンジン1基だけで、2基あるキハ54形より一段とコスト低減が図られました。
電化されていない予讃線の伊予市―宇和島間の普通列車は、内子線経由を含めてキハ54形とキハ32形ばかりでした。国鉄末期のコスト抑制という苦心の跡を“残り香”のように楽しむのに、うってつけの乗り鉄区間だと言えそうです。
Writer: 大塚圭一郎(共同通信社経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査員)
1973年、東京都生まれ。97年に国立東京外国語大学フランス語学科卒、共同通信社に入社。ニューヨーク支局特派員、ワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。「乗りもの」ならば国内外のあらゆるものに関心を持つ。VIA鉄道カナダの愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。





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