走行は見納め間近か、動く旧軍「八九式中戦車」 レストア完了までの苦難とその後(写真19枚)

最大のハードルは…?

 劣化が激しい箇所もあり、技術的に困難なレストア作業が続きましたが、最大のハードルはこの八九式中戦車が、正規の「装備品」ではないということでした。旧軍の戦車を自衛隊が復元しているとなれば、疑問も出てくるでしょう。あくまで歴史的資料の長期保存を目的として、作業も隊員が休日に自主的に集まって行われたため、完成までには9か月という時間が掛かってしまいました。

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磨耗が進む八九式中戦車の覆帯(画像:月刊PANZER編集部)。

 こうして2007(平成19)年の「土浦駐屯地開設55周年記念行事」には、八九式中戦車の走る姿が展示され、多くの見学者が集まりました。その後、毎年の記念行事では走る姿を見せ、某アニメの設定資料取材なども受けていましたが、レストアから10年以上が経過すると走らせることが困難になってきました。車体、エンジンはともかく、覆帯やピンの磨耗が進んだためで、交換部品も無く、覆帯が切れてしまったらそれでおしまいです。2018年11月10日の開設66周年記念行事では、三式中戦車と並んで展示されましたが、倉庫から展示場所まではそろそろと自走させたそうです。マニアからすれば、隣の三式中戦車もレストアして欲しいと願いますが、その予定は無いようです。

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2018年の開設66周年記念行事で、久しぶりに姿を見せた八九式中戦車。自走したので覆帯の設置面が錆びており、地面に覆帯跡が残っている(画像:月刊PANZER編集部)。
開設66周年記念行事にて、戦前戦車の後輩である三式中戦車と並んで展示された(画像:月刊PANZER編集部)。
走行できない左の三式中戦車の覆帯は塗装されてピカピカのままで、走行できる右の八九式中戦車の覆帯は錆びているのが対照的(画像:月刊PANZER編集部)。

 せっかく復活した八九式中戦車も、このままではまた動けなくなるのは自明です。旧軍の戦車を自衛隊が「装備品」にして整備予算を付けるのは難しいかもしれませんが、外部の博物館などに貸与して稼動状態を維持するなど、歴史的技術遺産として次世代に残す方法を真剣に考えなければならない時期にきていると思います。

【了】

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Writer: 月刊PANZER編集部

1975(昭和50)年に創刊した、40年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。

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