戦艦はなぜ消えた? 「航空機優位」だけじゃない、空母が海上戦力の中心になった理由

実はお安い空母、その理由

 3つ目のポイントはその「経済性」です。第2次世界大戦当時、日本の国力を結集して建造した戦艦「大和」の建造費が、当時の価格でおよそ1億4000万円、現在の価値にすると約3兆円弱になるそうです。同じころ建造された空母「翔鶴」「瑞鶴」の建造費はそれぞれ約8000万円ですから、「大和」の約半分の値段で建造できたわけです。

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大和型戦艦と同時期に建造された翔鶴型空母の「瑞鶴」(画像:アメリカ海軍)。

 当時は、年に50%ともいわれるハイパーインフレが起こっており、また空母の場合、艦載機やそのパイロットを考慮しないと戦力としてカウントできないので、一概にこれだけで有用性を問うのは難しいかもしれませんが、それでも多くの国が、戦艦の建造より空母に力を入れた理由のひとつが、このような経済的理由だったといえるでしょう。

 さらに戦艦の場合は、前線で直接的に敵艦とやりあうため、砲弾や魚雷に耐えられるような重装甲、そして敵艦の装甲を撃ち破れるだけの大口径砲を搭載しようとすると、建造にも高い技術力と相応のノウハウが必要です。しかし空母の場合は、ある程度後方から航空機を発着艦させるため、それなりの発着艦支援装置は必要ですが、艦自体にはそこまで高い建造能力を必要としないため、戦艦と比べれば短期間での大量建造が可能です。ゆえにアメリカは、太平洋戦争中に正規空母16隻、軽空母9隻、護衛空母118隻もの大量建造ができたわけです。ちなみに、同時期にアメリカが建造した戦艦はわずか4隻(ほかに、戦前に起工、戦中に竣工したのが4隻)だけでした。

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1945年9月2日、降伏文書調印のため戦艦「ミズーリ」に立つ日本側代表団。戦艦は外交のツールでもあった(画像:アメリカ海軍)。
WW2中、アメリカがほぼ1週間に1隻ずつ50隻も大量建造したカサブランカ級護衛空母(画像:アメリカ海軍)。
中国が初めて手にした空母「遼寧」。中国海軍の象徴的存在(画像:統合幕僚監部)。

 こうした理由から、空母は戦艦に代わって「海洋の覇者」となっていき、現代においては空母の有無が、各国の海軍力のひとつの目安といわれるまでになったのです。

 現在、原子力空母を有しているのは、アメリカのほかにはフランスのみです。そのほかに、軽空母も含めた通常動力型空母を保有している国は、イギリスやイタリア、インドなど5か国のみです。

 そうしたなか2017年には中国が、ロシアから購入した中古を改造した空母「遼寧」を就役させ、「中国海軍躍進の象徴」として大きな話題を呼びました。まだ艦載できる戦闘機は多くないといわれていますが、それでも東アジアで、正規空母を保有する国は中国のほかにはないため、大きな脅威であることに間違いはありません。

 現代の空母は、かつて砲艦外交において戦艦が果たしたような、象徴的な役割も担っているのです。

【了】

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コメント

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4件のコメント

  1. 海軍の最終目的は制海権の確保です。
    高速を誇る戦艦の存在はそれだけで戦略目的を半ば達成刷ることができます。
    より高速な艦隊を敵にした側は海軍の行動に大きな足枷をはめられ、強いては戦略視野を狭められるからです。
    ドレッドノートはその単一巨砲艦としての価値が目立ちますが、その最大のド級な所はその航洋性能にあると思います。
    火力と装甲は戦術目的を達成する要素ですが、速力は戦略目的を達成する要素なのです。

    つまり空母の利点は、艦載機の速力にあるのです。
    戦艦は空母による制海権獲得を阻止できませんが、空母は戦艦の制海権獲得を阻止できる
    これが戦艦が消えた最大の理由かと思います
    戦艦が時速500kmで海上を疾走できれば、WWⅡにおいても戦艦は生き残れたのではないでしょうか?

  2. 飛行機運搬船!?違うでしょ〜⁉️ 大日本帝国海軍の空母は戦争後半、半ば運搬船と化していました。(涙)

  3. レーダーの発達も大きな要因ではないでしょうか?

  4. 4ページ目の原稿の順番がおかしいように思います。
    3つある段落を、一番下からに上に読まないと意味が繋がらない。
    「 3つ目のポイントは~」
    「 当時は、年に50%とも~」
    「 こうした理由から、~」
    の順に読むとよさそうです。