「名古屋直通」目指した幻の鉄道「中津川線」 長野・飯田まで36km 昼神温泉と深い関係
中止の背景に「ライバル」の登場
しかも1975(昭和50)年、中央自動車道のうち中津川線に並行する部分(恵那山トンネル)が開通。名古屋と飯田を2時間半程度で結ぶ高速バスの運行も始まりました。「ライバル」が先に整備されたことで、中津川線の建設を求める沿線の声は小さくなったのです。
こうしたなかで国鉄の経営が悪化。1日1km平均の利用者数(輸送密度)が4000人未満と想定される国鉄新線の工事は凍結されることになり、輸送密度が1800人と想定された中津川線も1980年度で凍結されました。
中津川線の工事の痕跡は、いまもわずかに残っています。伊那中村~伊那山本間は全長約1.5kmの二ツ山トンネルを含む工事がほぼ完成。このうち二ツ山トンネルとその前後の路盤は工事が凍結されたころの姿を残しています。しかし、伊那山本寄りの路盤は国道153・256号のバイパスルートとして再整備され、鉄道の路盤の面影はなくなりました。
一方、温泉が湧き出た昼神では観光開発の機運が高まり、1975(昭和50)年に1軒の旅館がオープン。いまは約20軒のホテルと旅館が営業しています。歴史の浅い温泉ですが、中央自動車道の開通でアクセスしやすくなったこともあり、観光客が増加。1977(昭和52)年の宿泊客数が5万人くらいだったのに対し、愛知万博が開催された2005(平成17)年には48万人が宿泊しました。
その後は減少が続きましたが、環境省が「最も星の観測に適した場所」として阿智村を選定したのを機に、2011(平成23)年から「きれいな星空が見える温泉」としてアピール。これが功を奏して再び客が増えました。このほか、神坂トンネルの中津川寄りにもトンネル工事の痕跡があり、温泉施設の遊水池の先にトンネルの入口が残されています。
ちなみに、現在工事中のリニア中央新幹線も、飯田市から中津川市に抜けるルート。そう遠くない時期、中津川線の「代替鉄道」として機能することになりそうです。
【了】
Writer: 草町義和(鉄道ニュースサイト記者)
鉄道誌の編集やウェブサイト制作業を経て鉄道ライターに。2020年から鉄道ニュースサイト『鉄道プレスネット』所属記者。おもな研究分野は廃線や未成線、鉄道新線の建設や路線計画。鉄道誌『鉄道ジャーナル』(成美堂出版)などに寄稿。おもな著書に『鉄道計画は変わる。』(交通新聞社)など。
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