都市と地方のワンマン運転 目指すところは違う? 長い列車に一人で乗務する意味と課題

人件費は抑えたい でも安全運行は使命

 また細かいところでは、泊まり勤務時には通常二人で勤務している事業者で一人体制になると、起床を知らせ合うことができません。担当でない次列車の発車前の時間管理も行わなければならず、遅れを発生させる可能性も考えられます。乗務中も、以前は車掌が補完的に行っていた発車時刻の管理を運転士のみが行うため、例えば列車を早発させてしまうなどの危険性があります。過去にはつくばエクスプレスでの早発が話題になりましたが、ワンマン運転でなければカバーできたミスかもしれません。

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つくばエクスプレスの1000系電車。ATOを採用したワンマン運転を行っている(画像:写真AC)。

 このようにワンマン運転やドライバレス運転などの一人乗務には様々な課題が散見されます。しかしテクノロジーによる安全の担保をはじめ、運行に関するバックアップ機能も図れるのであれば、最新技術の導入も当然、良いものでしょう。少子高齢化や新型コロナウイルス感染拡大による収入減少で運営がままならない中、不可逆的なところでもあるため対策を立てないといけないのも確かです。

 運賃で儲けが出ないのであれば費用削減するのは経営的観点から見れば当然ですが、一方で鉄道の使命としての安全をないがしろにしてしまうのは大変怖いことです。そして運転士一人を養成するにはとても費用がかかります。過去にはいすみ鉄道で「訓練費700万円自己負担」も話題になりました。そのため、事業者がドライバレス運転を進めたい考えも理解できます。しかし、数値目標だけが先立って不安全な行動になってしまい、大きな事故につながってしまうのが最も危険です。このあたり、経営と鉄道運行のバランスを上手に保つことが、「ワンマン運転」を見据えた鉄道に課せられた大きなテーマとなります。

【了】

【写真】車掌車を再利用した駅舎があった

Writer: 西上いつき(鉄道アナリスト・IY Railroad Consulting代表)

大阪府出身。大学卒業後、名古屋鉄道にて運転士・指令員として鉄道運行に携わる。退職後、シンガポールの外資系企業にて国際ビジネスに従事。帰国後は東京を拠点として活動し2019年にIY Railroad Consulting設立、コンサルティング・セミナー・海外向け鉄道関連事業等を行う。東京交通短期大学・特別講師。著書に『電車を運転する技術』。

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コメント

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1件のコメント

  1. 今のAIや車の自動運転の技術革新を見ていると、車なんかより電車の方が自動運転化し易いんじゃないの? カメラによる安全確認や非常ブレーキのスピードもそうだし、自動運転は居眠りやスマホ操作はしないからね。
    だけど、痴漢やトラブルの対応はまだAIじゃ出来ないから、どちらかというと車掌を無くすより運転士を無くす方が先決なんじゃないのと思ってしまう。