事故から15年 線路高架化に時間がかかる理由 東武線の「竹ノ塚」踏切除却まであと一歩
連続立体交差事業 JR・私鉄問わず東京都内あちこちで進行中
もうひとつが鉄道を運行しながら線路を切り替えなくてはならないという工事上の制約です。竹ノ塚駅の工事の場合、まず駅の一部を取り壊して下り急行線を高架化し、次に駅舎を地下に移設して上下緩行線と上り急行線を仮線に移設。そして、空いたスペースに高架橋を建設し、下り急行線を高架化しました。この後、高架駅を建設し、上下緩行線と駅舎を移設して高架化を完了します。これらの工事は鉄道を運行しながら行うため安全上、本格的な工事は夜間しかできません。
また竹ノ塚駅付近の場合、鉄道用地に比較的余裕があったので、最低限の用地買収と道路の付け替えで工事を行うことができましたが、通常は仮線に切り替えるための用地を線路に沿って取得する必要があり、その取得に時間を要するケースもあります。広い用地を確保できない場合、上下線を一度に高架化することができず、線路をひとつずつ切り替えながら工事を行わなくてはならないため、工期が長くなってしまうのです。
近年、東京近辺で行われた連続立体交差事業を見ても、JR中央本線の三鷹~立川間約13.1kmの高架化では事業完了まで18年間、京急電鉄の京急蒲田駅(大田区)付近約6.0kmの高架化では16年間、京王電鉄京王線調布駅付近約3.7kmの地下化では12年間と、いずれも完成まで非常に長い時間がかかっていることが分かります。
1959(昭和34)年以降、都内では連続立体交差事業にともない合計395か所の踏切が除去されてきましたが、依然として1000か所を超す踏切が残っています。現在、東京では竹ノ塚駅付近の高架化の他に、京王線の笹塚~仙川間、京急本線の泉岳寺~新馬場間、JR埼京線の十条駅(北区)付近など、7区間で連続立体交差事業が進行中です。鉄道と道路の安全を求めて、地道な取り組みが続きます。
【了】
Writer: 枝久保達也(鉄道ライター・都市交通史研究家)
1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx
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