ミニ空母でも戦える! 疑念晴らした革新的戦闘機「シーハリアー」23機撃墜の金字塔

VTOL機の有用性立証で世界中が次々採用へ

 この紛争には、最終的に艦上機仕様の「シーハリアーFRS.1」28機、同機の不足を補うため応援として派遣された空軍仕様「ハリアーGR.3」10機、計38機が投入されています。なお、停戦までに前者が6機、後者が4機失われたものの、いずれも地対空ミサイルや対空砲火、事故によるもので、空戦で撃墜された機体は1機もありませんでした。

「シーハリアー」は、マッハ1(約1225km/h)前後しか出せないにもかかわらず、空戦でアルゼンチンの「ミラージュIII」や「ダガー」といったマッハ2(約2450km/h)級の機体を含む、各種軍用機23機を撃墜(ヘリコプター含む)しています。

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イギリス空母「インヴィンシブル」のスキージャンプ甲板から発艦する「シーハリアー」戦闘機(画像:アメリカ海軍)。

 ちなみに、空軍の「ハリアー」は敵機撃墜を記録していません。というのも、空軍の「ハリアー」は海軍の「シーハリアー」と比べ空戦装備が劣っていたので、対地攻撃メインで用いられたからです。

「ハリアー」シリーズは実戦投入される前は、VTOL機特有の推力偏向を用いた空戦技に期待が寄せられていました。結局、フォークランド紛争では、そのようなテクニックは使われなかったものの、旋回性能向上のため飛行中にジェット・ノズルを動かした事例はあったといわれています。

 こうして「シーハリアー」が高い空戦性能を見せつけたことで、フォークランド紛争が終わると、空軍仕様も含め「ハリアー」シリーズを採用する国が続々と出るようになりました。やがて、各国でVTOL機の運用に関して研究が進んだことで、その利便性が広く認知されるようになり、VTOL機について懐疑的な意見をいう関係者はほぼいなくなっています。

 その結果、今日では「ハリアー」シリーズの後継として、より高性能のF-35B「ライトニングII」戦闘機が開発され、イギリス海軍でも運用されています。

【了】

【洋上迷彩が特徴】イギリス海軍の「シーハリアー」戦闘機を前から後ろから(写真で見る)

Writer: 白石 光(戦史研究家)

東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。

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