密室のコックピットで!? 戦闘機パイロット襲った「大トラブル」いまだ完全解決できない切実な課題とは
女性パイロットにはさらに切実な問題かも
スネルグローブ中佐はバックルを取り外そうと試みますが、F-16の操縦桿は右サイドパネルにあり感圧式であるため物理的にほとんど動かず、外すことができませんでした。
その間バックルは操縦桿を数mmだけ右上に押し続けます。結果、機体は右へロールすると同時に降下しはじめ、最終的にはスピンにまで陥ってしまったのです。姿勢を回復させようとスティックを操作しようにもバックルが挟まっているので全く動きません。高度は3万3000フィート(約1万m)から2000フィート(約600m)まで落ちたため、スネルグローブ中佐はやむなく緊急脱出しました。ベルトを外していたため脱出できないおそれがありましたが、幸い彼は軽い打撲を負っただけで命に別状はなく、ヘリコプターによって救助されました。
この事故は、用を足すのに失敗したという単なる「笑い話」として片付けるにはあまりにも深刻なものだと言えるでしょう。現在も戦闘機パイロットにとって膀胱の問題は存在し続けていますが、いくつかの解決策はあります。
例えば「大人用おむつ」は古典的ながら有効な選択肢のひとつです。また事前に装着するタイプの排尿装置も開発されており、これはベルトを外さなくとも吸収できることから「アドバンスド・ミッション・エクステンダー・デバイス(AMXD)」などと呼ばれています。
とはいえ、これらは完璧な解決方法といえるシロモノではありません。加えて、近年では世界的に女性の戦闘機パイロットも増えているため、男性とは別のアプローチでの解決法が必要なことも間違いないでしょう。
前出のスネルグローブ中佐のF-16墜落事故は、戦闘機には酸素供給装置を始めとして様々な生命維持装置が搭載されている一方で、排尿という生理問題はいまだ完全解決できずに存在し続けていることを明らかにした一件だったと言えそうです。
【了】
Writer: 関 賢太郎(航空軍事評論家)
1981年生まれ。航空軍事記者、写真家。航空専門誌などにて活躍中であると同時に世界の航空事情を取材し、自身のウェブサイト「MASDF」(http://www.masdf.com/)でその成果を発表している。著書に『JASDF F-2』など10冊以上。
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