「あ、あのバイクの“スズキ版”ね」でもユニークでカワイイ! スズキ“女性向け原付”の系譜 最後に放った“大逆転弾”とは!?
1970年代のレジャーバイクブームを受け、各社が女性向け「ソフトバイク」市場に参入した中、スズキは常に後手に回り続けました。しかし諦めることなく開発を続けた結果、最終的に22年のロングセラーモデルを生み出すことになります。
シェア争いが落ち着いた後にスズキが放った「静かなるロングセラー」
いわゆる「HY戦争」が落ち着きを見せた1980年代中盤になると、原付市場ではソフトバイク、ファミリーバイクというカテゴリーが鳴りをひそめ、一気に増えた各社のスクーターモデルが中心になりました。

もちろんスズキも同時期に複数のスクーターを開発していましたが、ここでスズキが素晴らしいと思うのは、この時代にあってもファミリーバイクの開発を完全には諦めていなかったこと。
1986年リリースのモレというファミリーバイクがその象徴です。ここまでのソフトバイク、ファミリーバイク開発を試行錯誤を生かしたストイックなモデルで、簡素なファミリーバイクと言えどもしっかりとした機能を備えた、商用車にも耐えうる1台でした。
「女性新聞配達員向けのモデルを作って欲しい」
モレの完成度の高さは少しずつ世に知られるようになり、後には社団法人新聞協会や新聞販売店関係者からスズキ側に「モレをベースにした女性新聞配達員向けのモデルを作って欲しい」と要望が入ります。
そこでスズキでは、1990年代前半のヒットスクーター、セピアのエンジンを流用するカタチで1994年、モレのモデルチェンジと合わせて、女性新聞配達員モデルのスーパーモレをリリース。
この評価は一般にも知られるようになり、結果的にモレシリーズは1986年から2008年まで22年に及ぶロングセラーモデルになりました。
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ここまでの通り、1970?1980年代前半までのスズキは、ホンダ、ヤマハの熾烈なシェア争いの影で遅れをとり、市場ニーズとはややズレたファミリーバイクを次々とリリースしていたようにも映ります。
しかし、それでもなおスズキが「ファミリーバイクに求められるもの」と真摯に向き合い開発を諦めなかったことで、後に配達のプロの女性も認めるほどのモレ/スーパーモレという、小さなロングセラーを実現したというわけです。ホンダ、ヤマハとは違うスズキらしいエピソードの一つではないでしょうか。
Writer: 松田義人(ライター・編集者)
1971年、東京都生まれ。編集プロダクション・deco代表。バイク、クルマ、ガジェット、保護犬猫、グルメなど幅広いジャンルで複数のWEBメディアに寄稿中。また、台湾に関する著書、連載複数あり。好きな乗りものはスタイリッシュ系よりも、どこかちょっと足りないような、おもちゃのようなチープ感のあるもの。
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