さよなら「超絶傑作機」! 米海兵隊から退役もスペインは延命なぜ? 日本も無関係ではない「ハリアーの呪縛」
米海兵隊で55年間活躍したAV-8BハリアーIIが退役しました。しかしスペインでは延命が図られるなど対応が分かれています。背景にある「ハリアーの呪縛」とは何か、日本の海上自衛隊にも関わる問題を見ていきます。
「空母はあるが艦載機がない」スペインの悲劇
理由は技術的な難易度の高さにあります。V/STOL機は垂直飛行を可能にする強力なエンジンと推力制御、複雑な飛行制御システム、高温排気の対策など、通常の戦闘機にはない特殊技術が必要です。冷戦時代にはソ連もYak-38やYak-141といったV/STOL機を開発しました。しかしスペック的にも見るべきものはなく、ソ連崩壊とともにその系譜は途絶えました。
イギリスもブリティッシュ・エアロスペース(BAe)P.1216という次世代V/STOL戦闘機を構想していましたが、実現には至りませんでした。最終的には独自開発を断念し、アメリカ主導のF-35B共同開発に参加しています。それほどまでにV/STOL機の開発は難しいのです。
「ハリアーの呪縛」とは、各国が唯一無二のV/STOL機ハリアーを前提に艦載航空戦力を整備した結果、その後継であるF-35Bにも依存せざるを得なくなったことです。スペイン海軍がこの問題に悩まされています。
同海軍は2010年に強襲揚陸艦「ファン・カルロス1世」を就役させました。この艦はスペイン海軍最大の艦艇であり、AV-8Bハリアー(スペイン向け派生型EAV-8B)とF-35B運用も視野に入れて設計されています。ところが、スペイン政府は2025年8月にF-35AとF-35Bの取得計画を凍結しました。
背景には、予算の問題と近年の対米関係の冷却化が影響しています。防衛費増額やNATOの安全保障政策を巡ってアメリカと意見の相違が目立ち、現在の対イラン作戦ではアメリカ軍機がスペインの基地を使用することや領空通過を禁じているほど冷え込んでいます。
スペイン海軍は遠からず「空母はあるが艦載機がない」という状態になります。海軍と国防省は固定翼艦載機の維持に向けた新たな選択肢を模索しています。スペインの造船会社ナバンティア社に、従来型の艦載機を運用できるカタパルト搭載空母を新規建造する実現可能性調査を依頼しているとされますが、財政負担は莫大なものになるでしょう。
この問題はスペインだけの事情ではありません。海上自衛隊もまたF-35Bを導入し、「いずも」型護衛艦の空母化を進めて、日本は第二次大戦後初めて固定翼艦載機を運用する能力を本格的に獲得することになります。しかし、その能力はF-35Bの存在が前提です。運用の持続性と後継まで考えておく必要がありそうです。
ハリアーは中規模海軍に「手軽な空母航空戦力」という夢を与えました。しかし半世紀後、その成功が逆に各国海軍を縛る結果となっています。「空母はあるのに載せる艦載機がない」――日本海軍が過去経験し、スペイン海軍が今味わっている悲喜劇を、海上自衛隊でも繰り返されないことを願いたいものです。
Writer: 月刊PANZER編集部
1975(昭和50)年に創刊した、50年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。





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