新しい戦車よりも「バレンタイン」をくれ! イギリス最多生産戦車 ソ連で物凄く愛されたワケ
カナダ生産分のほぼ全数がソ連行き
ただ、そういったなかでバレンタインに猛烈なラブ・コールを送る国がありました。それが、冒頭に記したようにソ連です。
もともとソ連は1941年の独ソ戦勃発直後からレンドリース(武器貸与)という形でイギリスからバレンタイン歩兵戦車を数多く受け取っていました。そのようななか、ソ連は本車の機動性と機械的信頼性の高さ、小型であることなどを高く評価し、威力偵察などに重用していたのです。ゆえに、イギリスが陳腐化したバレンタインの代わりにクロムウェル巡航戦車を提供すると言ったところ、逆にソ連は古いバレンタインの方を供給し続けるよう求めたほどでした。
このような事情から、バレンタイン歩兵戦車はイギリス本土で6855両が生産されましたが、そのうちの2394両が、またカナダでは1420両が生産されたうちの1388両が、それぞれソ連へ供与されています。特にカナダでの生産は、事実上、ソ連へ渡すためだけに行われていたといっても過言ではないほどです。
ちなみに、これらソ連に送られた総計3782両のうち、ソ連が受領したのは3332両で、残りの450両は輸送中に失われたとも。こうした経緯も相まって、バレンタインは第2次世界大戦中、もっとも多く生産されたイギリス戦車にもなっています。
なお、ソ連では1941年11月から実戦での運用が始まりましたが、なんと大戦末期1945年8月の満州侵攻まで使われていました。ここからも、いかにバレンタインが前線のソ連兵たちから機械的信頼性の高さで評価されていたか、垣間見ることができるでしょう。
兵器は時として、母国よりも供与先で高い評価や優れた戦績を残すこともある――バレンタイン戦車を見るとまさにその通りだといえるのです。
【了】
Writer: 白石 光(戦史研究家)
東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。
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