「旅客機とヘリの空中衝突」システムで防げなかったの?→「ありましたよ」その内容と当日の状況

アメリカで旅客機と陸軍ヘリの空中衝突事故が発生しました。航空機には、こうした衝突を防ぐ装置はないのでしょうか。

軍用機の「2つの装置」搭載状況は?

 ICAO(国際民間航空機関)はADS-Bの技術的仕様が国際標準として認められた2003年、新たな安全確保の方法として各国に採用と普及を呼びかけました。ちなみに、日本はICAOの理事国であり職員と拠出金を出していますが、ADS-B普及への取り組みは諸外国には大きく遅れています。これでは理事国として相応しいのかどうか疑問です。

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アメリカン航空グループのCRJ700。衝突事故の当該機(画像:Colin Brown[CC BY〈https://qr.paps.jp/aqdrT〉])

 さて、今回事故を起こした米軍の状況をみると、輸送機は全機にADS-Bとトランスポンダーが搭載されています。一方で、それ以外の機種のなかには、ADS-Bが搭載されていないものもあります。戦闘機などの作戦用航空機は、作戦中は当然自機の存在を秘匿するためADS-Bやトランスポンダーを使用しません。しかし訓練空域の外を飛行する場合はトランスポンダーを使用してTCASが反応する状態で飛行して安全を確保します。

 さらに、編隊飛行を行う場合は、先頭の機体と最後尾の機体だけがトランスポンダーを”ON”にして飛行しますが、編隊の中間に挟まれて飛行するほかの機体はトランスポンダーを”OFF”にして飛行します。

 つまり、TCASは先頭と最後部の2機以外には反応しません。そのため、軍用機の編隊が近くを飛行している場合、民間機はこの編隊飛行時のトランスポンダー使用方法を十分留意して飛行する必要があります。

 今回のワシントンDCの事故については、「現段階の情報」と前置きしながら、NTSB(アメリカ国家輸送安全委員会)の委員長は先週、陸軍のヘリコプターに搭載されていたADS-Bが機能していなかった可能性があること、そしてヘリコプターのパイロットは暗視ゴーグル着用していた可能性があると発言しました。ともに事故の原因に大きな影響を及ぼす情報です。さらに、トランスポンダーは機能していたとつけ加えました。

 過密な空域は世界中で増え続けています。この事故調査の進展は当分の間、世界の航空関係者が注視することになるでしょう。

【写真】無惨だ…これが「空中衝突した旅客機」の残骸です

Writer:

各国の航空行政と航空産業を調査するフリーのアナリスト。

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コメント

1件のコメント

  1. T-CASは2つの機能があって,1つは「アドバイス(衝突回避指示)」もう1つは「アラート(衝突警戒警報)」。

    回避支持は一方には上昇を,他方には下降を装置が自動で指示するものなので低空域(1000ft以下だったか)ではそもそも「機能しない」。

    ※視界が悪い状態で高度が低い側に下降指示出したら墜落しかねないため。今回の事故は300ft辺りで発生。

    衝突警報は互いの進路が接近,交差する場合に発報するが,空港近辺では(地上の機も含めて)機が密集するために警報は「発報しない仕様」。

    ※それでもボイスレコーダには発報音が記録されてたらしいから,本当に衝突する直前(つまり接触事態は避けがたいタイミング)には警報されるのかもしれん。

    つまり本事故ではT-CASは「あっても意味がなかった」事例。

    ADSについてはフライトレコーダ24はじめ,軍のヘリの情報が他者に検知されているので,機能はしていた。

    ただし,着陸機側のレーダーにどの程度注意を引く表示になっていたかは疑問。

    ※T-CAS同様に空港近辺では他機が多く,全てを表示したらレーダー画面が数値で埋まって用を為さなくなるだろう。

    他方,軍のヘリ側は,ヘリは原則「有視界飛行」なので,レーダー表示をどこまで注視していたか疑問。事実ヘリパイロットは「目視間隔(目視で他機との安全距離を確保すること)」を宣言していた。

    今回の事故は「制限高度(200ft)を超えて飛行していた」軍用ヘリのパイロットの操縦ミス。