「火攻め」「水攻め」で長期不通に… 40万本のタイヤが燃え、駅が「浮上」!? 武蔵野線の受難史

首都圏の放射路線を環状に結ぶ武蔵野線は、過去に2度、長期不通に見舞われています。1980年の高架下火災と1991年の水害という、いわば「火攻め」「水攻め」はどのようなものだったのでしょうか。

雨で駅が歪んだ!?

 武蔵野線を襲った「水攻め」が、1991年10月に新小平駅で発生した線路隆起事故です。異常は10月11日23時頃、駅に到着した車掌がホーム上の壁から水が出ていることに気付き、指令に連絡したことで発見されました。

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現在の新小平駅(筆者撮影)

 保線区員が現場に急行すると、ホーム中央部が500mmほど盛り上がっているのを確認。隆起はその後、6時間ほど続き、最終的に最大1.34mにも達しました。新小平駅は1mあたり130トンの巨大なU型擁壁を8個つなげた構造の掘割駅でした。隆起で擁壁に大きなすき間が生じ、大量の水と土砂が駅に流れ込みました。

 深夜だったため人的被害はありませんでしたが、列車運行は全面的に停止。貨物列車は全て山手貨物線へ迂回運転し、旅客列車は府中本町~西国分寺間、新秋津~西船橋間で折り返し運転を実施するとともに代行バスを運行しました。

 原因は雨でした。1991年8~9月の武蔵野地区は累積雨量が724mmと非常に多く、さらに台風の影響で10月6日から大雨が続き、連続降水量は227mmに達していました。後に判明することですが、雨の影響で周辺の地下水位は過去23年間の最高値から約1.5mも上がっていたのです。

 地下構造物は自重と地下水の浮力が釣り合う形で「地中に浮いて」いるため、地下水位が上がり、浮力が大きくなると構造物が浮き上がってしまうのです。東京駅総武快速線の地下ホームも同様に、水位が設計時の想定から20mも上昇し、対策をしていますが、掘割駅では想定外の事態でした。

 工事復旧は井戸を掘って地下水を排出するディープウェル工法から始まりました。構造物の全面的な作り直しも想定される事態でしたが、揚水で隆起はやや落ち着いたため、擁壁を維持して復旧する方針となりました。

 隆起した線路はU字擁壁の下部を取り壊し、作り直して勾配を復旧しました。左右に分離され、U型からL型になった擁壁はストラットで接続し、強度を確保しています。また、これらには15mのアンカー150本を地中に埋め込んで、さらなる浮力の増加に備えています。

 これだけの工事を2か月弱で完了し、12月12日に運転を再開したのだから驚きです。

【痕跡あり】「水攻め」にあった駅の“傷跡”を見る(図と写真)

Writer:

1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx

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