性能で劣る「グリペン」なぜ急浮上? カナダの「F-35本命状態」を狂わせた“国民感情の悪化”とは
カナダ軍の次世代戦闘機計画で、にわかに浮上したJAS39E「グリペンE」の名前。F-35を受け入れにくいカナダの雰囲気とは?
外交関係の影響と無縁ではいられない兵器調達
もっとも、ここには大きな矛盾も存在しています。「グリペンE」はスウェーデン製戦闘機ではありますが、その中身を見れば完全にアメリカから独立した兵器とは言い難いところがあります。アメリカのゼネラル・エレクトリック製F414ジェットエンジンを搭載しており、各種兵装にもアメリカ製のシステムが多数組み込まれています。部品供給や兵器統合の面で、アメリカの輸出許可や協力を完全に排除することは不可能です。
さらに地理的現実も見逃せません。カナダは北極圏から大西洋、太平洋に至る広大な国土の防空をアメリカと共有し、北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)を通じて防空体制を一体的に運用しています。たとえ戦闘機を「グリペンE」へ変更したとしても、安全保障上の対米依存から抜け出すことは事実上できません。
結局のところ、「グリペンE」への関心は軍事的能力や兵站上の合理性だけでは説明できません。そこには、アメリカへの過度な依存から距離を置きたいという政治的意思、あるいは対米不信を可視化するための象徴的な意味合いが色濃く投影されていると言えるでしょう。
戦闘機の選定は、性能諸元の比較によってのみ判断されることはありません。兵器調達は国家間関係を映し出す鏡でもあります。カナダが「グリペンE」に目を向けている事実は、一見すると不可解な選択に見えながら、その実、北米における同盟関係の微妙な亀裂と、同盟国に対する「信頼」という無形の資産を軽視するアメリカへのいら立ちが具現化したものとみることができます。
Writer: 関 賢太郎(航空軍事評論家)
1981年生まれ。航空軍事記者、写真家。航空専門誌などにて活躍中であると同時に世界の航空事情を取材し、自身のウェブサイト「MASDF」(http://www.masdf.com/)でその成果を発表している。著書に『JASDF F-2』など10冊以上。





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