横から見たら同じ車両? 首都圏の鉄道で採用広がる「標準車両」とは(写真10枚)

統一したくてもできない例、しない例

 鉄道事業者の枠を超えて標準車両を入れるメリットは分かっていても、鉄道事業者はその歴史的な背景などから「完全に規格化された車両」をそのまま使うことはできません。一見よく似ている車両でも、実は鉄道事業者によってその線路を走れる車両の大きさは微妙に異なります。

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快速は2950mm幅の車体だが、地下鉄に直通する各駅停車はトンネルの関係で2800mm幅となっている常磐線(児山 計撮影)。

 たとえばJR東日本の常磐線快速は2950mm幅の車両を運用していますが、東京メトロ千代田線と直通運転を行っている常磐線各駅停車は、千代田線の基準に合わせた2800mm幅の車両です。快速用と各駅停車用とで車体の共通化はできません。

 東急電鉄では5000系と東横線用の5050系で車体の幅が20mm異なるため、たとえば田園都市線の5000系を東横線で使うことはできても逆はできません。

 関西の通勤電車は車体の長さ、ドアの数・位置ともに関東の車両とは異なるものが多く、また、阪急電鉄のように伝統を重視する事業者もあることから、首都圏のような形の標準車両を採用するのは南海電鉄など少数派です。

 しかし関西でも乗客の目につかないところ、たとえば床下機器や空調装置などは標準車両のガイドラインに則ったものを使っていたり、阪急電鉄のように塗装こそしているものの車体の構造は標準車両の工法で製造していたりするなど、できる範囲で標準車体のガイドラインを取り入れてコストダウンを図っています。

 標準車両は鉄道事業者の輸送需要が伸び悩むなか、低価格で新しい車両を導入できるメリットがあります。現在は、各鉄道事業者が共通化できるところは共通化し、独自性を出したいところはお金をかけるというやり方で、うまく取捨選択しているのです。

【了】

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Writer: 児山 計(鉄道ライター)

出版社勤務を経てフリーのライター、編集者に。教育・ゲーム・趣味などの執筆を経て、現在は鉄道・模型・玩具系の記事を中心に執筆。鉄道は車両のメカニズムと座席が興味の中心。座席に座る前に巻尺を当てて寸法をとるのが習慣。言うなれば「メカ&座席鉄」。

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コメント

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14件のコメント

  1. 良い物は使い続けていく?と言う発想とは少々意図が違うようですが、流している物にこちらが合わせいくのもよいのではないでしょうか?
    て言うか車なんてもろにこれですからね。
    切っても変えても捻っても同じ顔の金太郎飴と言ったところでしょうか?
    一車種のリコールは数車種のリコールであるように兄弟姉妹とはまた違う暖簾分けなんでしょうか?

  2. 先駆けというべき209系は本当にお粗末な車輌だったが、東急5000系やE233系になって21世紀の名車と呼べるようになったと思う。
    会社ごとの個性が減ってゆくのは寂しいが、機器トラブルがなくなり定時性が向上するならそれが良い。

  3. いずれ鉄道会社独自で車輌を抱えることは無くなっていくのだろうか。
    例えば、JRの常磐緩行線の車両は小田急の工場でメンテナンス出来るということになるかと思うんだが、であれば、“これはJRのクルマ”“これは小田急のクルマ”とカテゴライズする意味が無くなってきて、車庫をひとつにまとめて運用管理も専業の新規会社が引き受ける、という可能性も出てくるのかもしれない。

    • 逆に常磐線での必要機器を装備するためによく大宮に小田急4000形が留置されているのを見かけますね。

    • まさにそれ。

  4. 南海電鉄の最近の通勤車輌は、近畿車輌製なので、今までとは、違う事に、なっています⁉️
    JR西日本とは、設計が、同じ訳でも無くて、まだまだ、オリジナル車輌です⁉️
    会社組織が、違うのに、完全に、同じ車輌が、走ったら、その会社の存在意義が、無くなってしまうと思います。
    当然、なるべく安い資金で、高性能な車輌を、造る事は、理解出来るけど、デザイン迄、同じ車輌を、造るのは、有り得ない。
    基本仕様が、同じで、それぞれの鉄道会社の車輌を、造る流れは、変わらないでしょうね⁉️
    川崎重工業と日立以外は、鉄道会社の系列に、入っている会社が、多いので、仕方ないのかも、しれません⁉️

    • 近畿車輛は一見オリジナルに見えるが実は製造工法について各社とライセンスを結んでいる。南海の新車も川重の工法を採用している。川重と日立もしかり。西武40000形が川重。故にメーカーのオリジナリティとは因果関係は無い。

    • 鉄分の薄い意見で恐縮ですが、なぜ各社の違いがなくてはいけないのでしょうか。タクシーは大半が(少なくとも首都圏は)トヨタの2車種ですが、何も困ったことはありませんし、カラーやぼんぼりで会社名を識別できます。
      様々なデザインがあって楽しいのは単に趣味性の問題であって、機能が許す限り共通性を持たすことがコスト面では正義のように思えます。
      デザイン差別化にメリットはある場合はまた別議論ですが。

    • もうちょい句読点「、」と「。」感嘆符「!」「!?」「?」の使い方考えた方がいいよ

  5. なに、共通化は今に始まったことじゃない。
    合理化なんて昔からあるよね。
    ちょっと前は、通勤なら色違いの101系103系、205系で。
    近郊なら111系113系115系など。
    特急なら183系や483系とかさ。
    色やヘッドマークが違うだけじゃない?
    そりゃ線区によって装備が若干違うとか、電化が直流か交流かなどの違いはあるけどさ、一般の人には関係ないよね。
    もっと昔なら、日車標準車体とかあったよね。
    鉄道だけじゃないで、基本設計を共通化してコストを抑えるのは昔から普通にやってることだよね。

  6. 「ガイドライン」は、誰が定めたのですか? 業界の自主規格? 官主導?
    自然に湧いたような書き方だと、ものの本質が見えてきません。

    • 両方。2000年の京王9000形がそのガイドラインに則って設計された第1号。

  7. >常磐線各駅停車は、千代田線の基準に合わせた2800mm幅の車両です  えっ 小田急9000系は2870mmだったのではないですか? ちゃんと千代田線を走ってましたよ

    • 車体幅の問題より、乗り入れ線区の規格に合わせたというのが実際ですね。車体幅と限界幅について逆のケースが相鉄10000と11000。10000形はJRとの乗り入れは想定せず、単純に設計、製造、保守コスト削減の目的なので車体幅は当時の相鉄線の限界幅2930mmで製造され、新津車両製作所(当時)製造分もこれに従う。
      しかし、11000形はJRとの乗り入れも視野に入れたため、車体幅を2950mmとして、ドア配置もE233系に合わせた。
      結果、横浜駅のホームセンサー(当時)の改修やいずみ野線のトンネル区間の規定変更が行われた上で営業開始となった。
      なので、規定や設備は随時改定や工事が実施されるため、可能性は低いが東急の5050形だって田園都市線を走行するかもしれない。
      かつて、8090形も田園都市線を走るとは誰も思わなかったように。