「東京から特急が走る盲腸線」またも危機? 水没からの「議論の申し入れ」に揺れる路線の今と昔

吾妻線は再びの曲がり角へ…

 あのときの木造駅舎の川原湯温泉駅は、今や湖面のはるか下です。湖底へと沈んだ旧線は全く見えないわけではなく、湖面が下がると口を開けたトンネルが現れます。その姿は「八ッ場湖の駅丸岩」から遠景で観察することができます。

 長野原草津口駅から大前駅までは、かつての日本鉄道建設公団が建設した、ダム付け替え前からの線路となります。この区間は直近の2022年度の1日あたり平均通過人員は263人であり、収支は4億6千万円あまりの赤字。今はちょうど夏の青春18きっぷシーズンであるため、大前駅まで乗車する旅の利用は多少増えるかと思われますが、平均的な利用者数は低い値となっているのが実情です。

 JR東日本の高崎支社の発表では、「人口減少が進むなかのこの利用状況では、交通の方法が鉄道であるのかという議論と、沿線地域の公共交通を持続し、発展に貢献するため、利便性が向上する交通体系のあり方を総合的に検討する必要がある」としており、長野原草津口~大前間は沿線自治体や利用者と議論しながら、鉄道かその他の方法で公共交通の維持を模索していくことになります。少々回りくどい言い回しに感じるのは、どういったかたちにするのか、まだこれから議論する段階であるからでしょう。

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大前駅は1面1線のシンプルな構造。中間駅のような雰囲気であり、無人駅となっている(2004年10月4日、吉永陽一撮影)。

 吾妻線の平日の運行を見ると、全16本のうち、長野原草津口行きが特急列車を含めて5本、万座・鹿沢口行きが11本、大前行きは4本と、終点まで運行する列車は全体の4分の1で、8時10分、10時41分、17時11分、19時54分着の運行のみです。運行本数からも、利用者数の少なさがうかがい知れます。ダムによって一部区間が付け替えられた路線は、今後また転機が訪れるかもしれません。

【了】

【撮り鉄も集った】吾妻線「日本一短いトンネル」をくぐる電車(写真)

Writer: 吉永陽一(写真作家)

1977年、東京都生まれ。大阪芸術大学写真学科卒業後、建築模型製作会社スタッフを経て空撮会社へ。フリーランスとして空撮のキャリアを積む。10数年前から長年の憧れであった鉄道空撮に取り組み、2011年の初個展「空鉄(そらてつ)」を皮切りに、個展や書籍などで数々の空撮鉄道写真を発表。「空鉄」で注目を集め、鉄道空撮はライフワークとしている。空撮はもとより旅や鉄道などの紀行取材も行い、陸空で活躍。

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