サッカーW杯開催→「鉄道運賃“12倍”にしよう」 しかし“ぼったくり”とは言えない特殊事情とは? FIFAは激怒

 幕を控えたサッカーのワールドカップ(W杯)を巡り、ニューヨーク都市圏の競技場と結ぶ列車の大人往復運賃が「約2万4000円」に設定されました。目が飛び出るような金額の背景には特殊な事情がありました。

所在地は「陸の孤島」

 高額でも大勢の鉄道利用が見込まれている背景には、競技場が「陸の孤島」と呼ぶべき僻地に位置するという事情があります。

 筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)は勤務先のニューヨーク、ワシントン両支局駐在中にメットライフ・スタジアム近辺を訪れましたが、自動車社会のアメリカだけに、周辺に整備されているのは主にマイカーで訪れることを想定した自動車道でした。よって、通常運賃の路線バスで周辺地域まで行き、そこから歩いて向かう方法は難しそうです。

 鉄道以外では、マンハッタンなどと結ぶシャトルバスが往復運賃80ドル(1万2800円)で運行されます。マイカー利用者向けには、近くにある大型商業モールの約5000台分の駐車場のスペースが前売り販売されており、現在の価格は1台当たり225ドル(3万6000円)に跳ね上がっています。

 同じくW杯が開催されるアメリカ東部マサチューセッツ州ボストン近郊の競技場「ジレット・スタジアム」(W杯期間中の呼称は「ボストン・スタジアム」)も、マサチューセッツ湾交通局(MBTA)の鉄道で競技場最寄りのフォックスボロとボストン中心部の往復運賃は80ドルと通常の4倍です。ただし、NJトランジットの通常の12倍弱に比べると上げ幅は限定的です。

「慢性的な赤字です」そこに訪れる巨大イベント

 それでは、なぜNJトランジットの往復運賃は150ドルに定められたのでしょうか。背景には、世界的なスポーツ大会の開催でかさむ費用を「誰が負担するのか」という問題がありました。

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マサチューセッツ州ボストン中心部の駅に停車中のマサチューセッツ湾交通局(MBTA)の列車。これもW杯輸送で特別運賃を設定する(大塚圭一郎撮影)

 アメリカの公共交通機関は「赤字が当たり前」です。ニュージャージー州内の鉄道や路線バスを運行し、アメリカ最大の都市ニューヨークへの通勤客らが多く利用するNJトランジットも慢性的な赤字状態で、2025年6月期決算(24年7月~25年6月)の本業の損益を示す営業損益は27億4390万ドル(1ドル=160円で約4390億円)の赤字でした。

 すなわちサッカーW杯の観客を運ぶための列車運行も、通常の運賃であれば費用がかさみます。

 また、厳重な警備体制を敷くことも欠かせません。というのも、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロでは、ニュージャージー州に隣接するマンハッタンに林立していた2棟の超高層ビル「世界貿易センタービル」に旅客機2機が突っ込み、崩落しました。

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