鉄道の「こども運賃50円」なぜ今? 経営戦略だけじゃない、カギとなった“法の縛り”や技術の進化

鉄道各社で、ICカード利用時のこども運賃を一律50円や75円にする動きが広がっています。少子化対策の一環ですが、なぜ今まで実現が難しかったのでしょうか。背景には運賃制度の“縛り”や、技術の進化がありました。

小児運賃「無料」の事例も

 次のタイミングはICカードの登場です。2001年にSuicaが誕生し、2007(平成19)年のPASMO導入とともに小児用カードを新設しました。ICカードは不正判定が厳格で、小児用の発行には公的証明書が必要なので、悪用の危険性はぐっと下がります。つまり、システム上は約20年前から実現可能だったわけです。

 将来的な課題と認識していても誰もやらなかったのは、大手私鉄の定期外利用が2000年代に入って高いペースで伸び続けていたからでしょう。ところが、コロナ禍が「時計の針を10年早めた」ことで、人口減少社会への対応に本気で取り組まざるを得なくなったのです。ただし小田急電鉄はコロナ前から小児運賃50円均一化を検討していたといいます。

 小田急の小児運賃50円化は、運賃そのものを改定するのではなく、上限価格制のもとでICカード利用に限って運賃を割り引く扱いをしています。通常の磁気券のきっぷを購入した場合はこれまで通りの小児運賃が必要です。

 無料化も検討したそうですが運賃制度上、他社線との乗り継ぎ割引が設定可能な10円以上の金額にする必要があったため、分かりやすい値段として往復100円、片道50円にしたと説明しています。

 歴史を遡ると小児運賃を無料としていた事例があります。それが東京メトロ銀座線の前身である東京地下鉄道です。同社は1927(昭和2)年の開業にあたり日本初の自動改札機を導入しました。

 運賃の10銭白銅貨を直接投入し、十字のバーを押して回るターンスタイル式と呼ばれる機構でしたが、1種類のコインしか判別できないという問題がありました。通常であれば5銭になる小児運賃を設定できないので、ターンスタイルの下を通れる小児は無賃、頭がバーに当たるようになったら大人扱いとして運賃を収受する規則としたのです。

 しかしバスの初乗り運賃が5銭、市電の運賃が7銭均一の時代に、わずか2kmの路線が10銭では乗ってもらえません。やむなく5銭、10銭の2区間に改定し、1930(昭和5)年にターンスタイルは撤去されてしまいました。

 昭和の時代はともかく、子どもの数が減少した現代において小児運賃を大幅に割引しても業績への影響はほとんどありません。小田急は減収見込みを約2.5億円としていますが、これは定期外収入の0.3~0.4%に過ぎません。子育て世代の誘因とともに、親と電車で出かける機会が増えれば、むしろ十分にお釣りがきます。運賃政策はまだまだ様々な可能性がありそうです。

【下を通れれば無料】バーが回る「日本初の自動改札機」を見る(写真)

Writer:

1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx

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