JR四国が導入している「共同経営」、原点は80年前の香川に? 日本初の“先進的”な運賃制度とは
R四国が徳島県で始めた鉄道とバスの「共同経営」が注目されています。その仕組みの根幹にある「運賃プール制」は、実は約80年前の香川県に、日本初の導入事例がありました。
日本初「鉄道とバスの共同経営」
地方交通が苦境を迎えています。設備の維持に多額の費用が必要な鉄道は巨額の赤字で苦しんでおり、それに代わるはずのバスもドライバー不足で路線の縮小が進んでいます。そうした中、鉄道とバスがサービスを補い合う「モーダルミックス」が注目されています。
積極的なのがJR四国です。2019(平成31)年のパターンダイヤ導入で列車本数が削減された牟岐線阿南以南の利便性を確保するため、阿南~牟岐間で並行する徳島バス(高速バス)に乗車できる実証実験を行いました。しかし鉄道とバスで運賃が異なる、バスに乗車した場合は阿南以北が通し運賃にならないなど問題が多く、利用が伸びませんでした。
通常であれば「実験は失敗」で終わるところですが、徳島県と両社は本気でした。当時、阿南~牟岐間の運賃は鉄道が1080円、バスが1200円でしたが、どちらも乗れるようにするには1080円へ運賃の統一が必要です。しかし、これが難題でした。異なる事業者が運賃やダイヤを調整すると独占禁止法が禁じるカルテル(市場の競争を回避し不当な利益を得ること)とみなされる恐れがあるからです。
それを解消したのが、2020年に施行された独占禁止法特例法です。両社は2022年3月に大臣認可を取得し、4月に日本初となる鉄道・バスの「共同経営」を開始。運賃を1080円に統一することでJRの乗車券・定期券でバスに乗れるようになり、阿南駅で鉄道に乗り継いでも通し運賃になりました。JR四国がプールした運賃収入から徳島バスに配分額を支払います。
モーダルミックスは予土線宇和島~近永~松丸間、宇和島~江川崎間、予讃線向井原~伊予大洲間、土讃線洲崎~窪川間、鳴門線など他路線にも広がっています。しかしいずれも実証実験の段階で、共同経営まで踏み込めるかは未知数です。
様々な交通機関を共通運賃で利用できるようにして、運賃収入を各社に配分するプール制は諸外国では導入例が多々ありますが、実は日本にも実例があります。それは同じ四国、しかも戦時中の香川県で行われたものでした。どのような制度だったのでしょうか。
原点は「戦時中の香川」に
戦前の日本全国では、不況下に鉄道、バスが乱立したことで、利用者にとって不便で分かりにくいだけでなく、経営難に陥る事業者が続出しました。そこで経営とサービスの合理化を目的に当時の鉄道省が進めたのが「交通調整」です。
交通調整は多くの場合、事業者の統合という形で行われました。当時、香川には国有鉄道・バス以外に、地方鉄道が6社約91km、軌道が3社約30km、バスが45社約900kmあり、高松、琴平、善通寺、多度津などを拠点に熾烈な競争を行っていました。
地方鉄道、軌道及びバスの輸送量(1936年度)は1358万人で、大部分が栗林公園、屋島、八栗、琴平、善通寺の観光や参拝を目的とし、県外からの旅客も約200万人に達していました。宇高連絡船と接続する高松駅は四国の玄関口であり、旅客の不便と経済的な無駄を排除するため、香川県は四国地方で唯一、交通調整の対象に指定されました。
政府は初め、事業者に自主的な調整を促しました。讃岐電鉄(旧・四国水力電気、現・志度線)、琴平電鉄(現・琴平線)、高松電気軌道(現・長尾線)が合併して1943(昭和18)年に高松琴平電気鉄道(ことでん)が成立するなどの成果もありましたが、それだけでは不十分です。
そこで将来的な統合を視野に旅客の利便を増進するため、各社の運賃収入を一度とりまとめ、利用実績に応じて分配する運賃プール制の導入が決まり、1941(昭和16)年9月15日から実施することになったのです。
従来、香川では琴平急行電鉄(1944年休止、1954年廃止)のみ国有鉄道と連絡乗車券を発行していましたが、運賃プール制導入後は国鉄、私鉄、一部のバスを1枚の通しきっぷで発行するようになりました。そして主要駅間の運賃を統一し、旅客は最短経路の運賃でどのルートでも自由に選択して利用できるという先進的な仕組みでした。
戦時中に行われた取り組みですが、国家権力が強制して行ったものではありません。あくまで旅客の利便性を向上させ、交通問題を解決する新たな手法として、欧米の先進事例を参考に導入したものでした。
日本初の取り組みは好評をもって迎えられましたが、開始から3か月もしないうちに太平洋戦争が開戦。そして戦争の激化に伴い1944(昭和19)年1月10日に廃止されました。戦後も運賃プール制はたびたび議論されましたが、前述のように独占禁止法(1947年制定)の制約で実現しませんでした。運賃プール制は80年の時を超えて復活するのでしょうか。
Writer: 枝久保達也(鉄道ライター・都市交通史研究家)
1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx





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