「墜落しても減らない」爆撃機の謎 “76機体制”を維持できる秘密が「航空機の墓場」にあった
アメリカ空軍のB-52爆撃機は1962年に生産終了したにもかかわらず、なぜか機数が減りません。その裏には、通称「航空機の墓場」と呼ばれる施設の驚くべき役割がありました。
「モスボール」が支える驚異の再生能力
もっとも「モスボール」は、言うほど簡単でありません。まず、デービスモンサン空軍基地が「航空機の墓場」として使える立地条件です。周辺は年間降水量300mmにも満たない乾燥地帯で、塩害も少ない内陸部で台風もなく、湿気による腐食が極めて少ない環境です。さらに地面には石灰質の硬い土壌が広がり、大型機でも沈み込みにくいため、広大な舗装面を整備しなくても機体を並べて保管できます。言わばアリゾナ砂漠そのものが、巨大な天然倉庫なのです。
しかし保管中も技術者を確保し、部品を管理して最低限のメンテナンスが必要でランニングコストが発生し続けます。モスボールされた機体はすぐに使えるわけではありません。実際ワイズガイの復活には数年の期間と膨大な整備作業が必要でした。安上がりな仕組みではありません。
「戦いは数だよ」。ロシア・ウクライナ戦争は、最新兵器の性能だけでなく「失われた兵器をどれだけ補充できるか」が勝敗を左右することを改めて示しました。どれほど優秀な兵器であっても、失われれば戦力は減ります。だからこそ各国は、平時には無駄に見える予備戦力や保管装備を維持しているのです。ロシア軍はモスボールしていたT-62やT-55といった旧式戦車まで引っ張り出し、ウクライナ側も各国から供与された旧式装備を活用しています。日本でも近年74式戦車や90式戦車、一部火砲のモスボールが始まっています。
B-52は1955年から実戦配備に就いています。「よくもそんな古い飛行機が飛んでいるものだ」と感心しますが、本当に驚くべきは現役として飛ばしていることではなく、冷戦時代に大量生産された機体を数十年間保管し、必要になれば復活させる体制で戦略戦力として維持されてきたことです。B-52の長寿命は、優れた設計だけの成果ではありません。モスボールされた予備機群と、それを維持する国家の体力と地勢があって初めて成立するものです。
先に紹介したB-52Hの60-0034「ワイズガイ」は、配備されていた第5爆撃航空団から2008年に「ボーンヤード」に送られましたが、その際第5航空団の誰かがコクピットのクリップボードにメッセージを残しています。
「AMARG、この60-034は冷戦の暗い時代から世界的なテロとの戦いまで、アメリカを見守り続けた冷戦時代の戦士だ。彼女を大切にしてくれ…再び必要になる日まで。」
70年以上飛び続ける爆撃機の姿は、単なる長寿記録ではありません。冷戦期に大量生産された機体を保管し必要になれば復活させる。その体制を維持する国力まで含めて「備え続けること」の価値を物語っています。
Writer: 月刊PANZER編集部
1975(昭和50)年に創刊した、50年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。





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