通勤ラッシュは「量から質」へ? もう「本数を増やすだけじゃない」コロナ禍を経て変化したこととは
コロナ禍を経て鉄道の通勤客が減り、首都圏を中心に混雑率が低下しました。この変化は減収に直結しますが、鉄道事業設備投資には変化が現れ始めています。
問われる鉄道事業の「持続性」
ただ、少子化や人口減少による働き手不足はコロナ禍以前からの課題であり、東急の2019年度計画にも、設備の状態を常時監視して予防保全を行うCBM(Condition Based Maintenance)に基づくモニタリングシステムの導入、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)を活用した監視・分析データ活用方法の検討を進めるとあります。
多くの人手を必要とする保守作業の合理化は、鉄道事業の効率化を進める上で欠かせません。今後は首都圏であっても鉄道利用者の大幅な増加は見込めないことから、少ない人手と経費で現在の輸送規模を維持できるか、鉄道事業の「持続性」が問われることになったのです。
ただ、通勤輸送の縮小は鉄道事業者にとって悪いことばかりではありません。鉄道の輸送力は輸送量のピークに対応して整備しなければなりません。つまりピーク1時間に旅客が集中する通勤ラッシュは、鉄道事業の資産効率を著しく下げるのです。もしラッシュがなければ、私鉄各社は複々線化せずに済んだかもしれません。
前述のように混雑緩和の重要指標は混雑率であり、そのために列車あたりの定員と運行本数を増やす必要がありました。ところがコロナ禍で混雑率が150%を下回ると、ダイヤに余力が生まれ、朝ラッシュ時にライナーや特急など着席保証列車の増発が可能になりました。例えばコロナ禍後のダイヤ改正で、小田急は「モーニングウェイ」、東武は「TJライナー」を朝に3本増発しています。
現時点では現有車両やコロナ前から計画されていた座席転換型車両の活用が中心ですが、今後は東急の「Qシート」のように、一部列車に指定席車両を組み込む事例がさらに拡大するかもしれません。
営業面でも、これまではICカードで大量の旅客をさばき、残る多様なニーズは人で対処する方針でしたが、駅務機器の削減、省人化を意図したチケットレスサービス、QRコード乗車券、クレジットカードタッチ決済の導入が進んでいます。これにより割引率向上などサービスが向上した一方で、デジタルが不慣れな人の利便性低下が問題視されています。
コロナ禍から5年が経過し、コロナ禍後に検討着手した取り組みも徐々に形になっています。鉄道事業をとりまく環境は厳しさを増すばかりですが、単なる規模の縮小ではなく、量から質へサービスの変化を期待します。
Writer: 枝久保達也(鉄道ライター・都市交通史研究家)
1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx





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